12 時空のゆがみ

投稿日 : 2021.07.16


重力源によって4次元の時空がゆがむ様子を知るために、パウリのいう「数学の道具」をほんの少し知るのが役に立ちます。ただ、4次元空間といっても絵が描けないので、ここでは横軸としてz軸、縦軸をictという量を表す時間軸を考え、次のような絵を考えます。ここで、i は i=ー1となる数です。fc680395f40e6ac2b8d86f1ada8a9f0596763989.jpg

オレンジ色の直線は45度傾いた直線で、その直線を細かく等分に分割した一片をdsとすると、ピタゴラスの定理から、equation(134).pngと書けます。

真空中では、光の進む距離はequation(107).pngですから、(ds)2は常にゼロです。光はこのオレンジ色の直線に沿って進みます。

光以外の物体の速さはcより小さいですから、すべての物体は草色(教科書などでは3次元で表して円錐状の)空間の中を運動します。Δはこの空間のある点での時間の刻み(瞬間)を表す量(局所時間、Local Timeと呼ばれます)です。

もし空間がゆがんでいると、z軸と時間軸の刻みが変化する、つまり物差しの目盛りの間隔が大きくなると、物体の実際の長さは縮んで見えます。また、時間の刻みが短くなると、実際の時の流れが遅く(なかなか時間が進まないように)見えます。ですから、そのゆがみは次のように表すことができます。equation(109).png ここでξとηは、その時空での縦軸と横軸の刻みの変化を表し、重力源の大きさや、そこからの距離によって変わります。

1916年、シュワルツシルド(Karl Schwarzschid ,1873-1916)という天文学者が、天体が質量Mの完全な球形で回転もせず、電気も帯びてなく、重力場が方向に寄らず中心からの距離rだけで表されるという最も簡単な例について、アインシュタイン方程式の厳密な解を求めました。Schwarzschid metric.jpgこの場合、(ds)2(metric:計量と呼ばれます)は、上の絵の下側の数式で表され、重力の働く時空は、重力源を中心として球状ですから極座標で表されています。ここでGは万有引力定数です。

このメトリックを34c6ce60563a265d465eb02fcbcb3b263e34bc49.pngと比べると、ξとηの部分に、重力源の質量Mや空間の幾何学的性質が反映されて、時空が歪んでいるのが分かります。 

重力源の中心から十分離れた場所に話を移しますと、そこでは重力は非常に弱いので、下の式の青の矩形で囲んだ部分は、上の式の緑の矩形で囲んだ部分のように、数学的にはcが含まれる項までを有効として近似できます。また、遠くでは重力場の拡がる球面はほとんど平面とできるので、下の式のオレンジの矩形で囲んだ角度に関係する微小量は無視できます。

この場合、equation(155).pngequation(156).pngとなっています。ただし、これはrがかなり大きく重力が弱い場合で、例えば地球の重力源によって地表の近く空のゆがみはこれから見積もれます。これから人工衛星の時間と地上の時間が違う訳が分かります。