31-a 補足

投稿日 : 2021.09.30


量子力学とアインシュタインたちと、どちらが自然の実情に合っている考え方か? それを判定できるというベルのアイデアはおおよそ次のようなものです。

内容は2つあって、一つは原理的な事、もう一つは実験で確かめるための指針です。筆者は、その中でも原理的な部分に非常に感銘を受けました。

彼は31で示した矢印の対が互いに半平行(互いの角度θが180度)である陽子と陽子の散乱過程を例にして、例えばアリスの検出器はθ=0の矢印を持った〇を検出し、かつ、ボブではθ傾いた矢印を持った〇を検出する確率Pを量子力学の理論では、equation(301).png であるが、アインシュタインのいう隠れた変数、λを想定する理論では、次の式のようになるとしました。equation(302).pngここで、ρ(λ)は隠れた変数がλである確率で、Pはあらゆるλで平均した量であるとしました。そして、両者がすべての角度θで一致しないことを示しました。

まず原理的なアイデアは1976年のCERN(欧州原子核研究機構)での講義録に分かりやすく述べられています。θ=0の時は、二つの矢印は同じ方向を向いていて、量子力学でも、アインシュタインの考えでも、実際には起こりえないので、Pはー1です。(これは相関関数といって、二つのことが同時に起きえないときはー1となる量です)そこで、θをほんの少しゼロからずらすと、量子力学ではPの変化はほとんど変わりません。(数学的にはcosθをθで微分するとθ~0ではゼロです。

一方、隠れた変数がある場合は、アリスとボブでの検出はお互い関係がないので、θがすこし増えるとその分矢印が半平行である現象が得られる確率が増えます。しかも、θの変化を逆の角度に変えても、結果は同じですので、この場合はθ=0では、Pのグラフは滑らかにつながらず、角ができます。つまり、そこでは微分ができません。その様子をグラフで示しました。Bell3.jpgこのように二つの考え方はθ=0の点ですでに数学的には決定的に違っているわけで、絶対に両者を一致させることはできないことが明らかなのです。

これを読んだとき、正直うなりました。そして、アインシュタインは天才ですが、ベルはその先を行く本当の天才かと思ったものです。

次に具体的な実験の指針ですが、ベルは隠れた変数を仮定した時には、次の関係式があるとしました。equation(304).png したがって、量子力学の場合についての-cosθとの差が一番大きいく見える角度が45度ですので、そこで実験をすればどちらが正しいかがわかると予言したわけです。

実際にこれを確かめたのはアスペですが、光の場合は縦と横の偏光が対となりますので、ベルの場合の180度が、90度になります。したがって両者の違いが最大になるのは45度の半分の角度なので、そこで比較すればいいことになります。具体的な実験の詳細は論文や解説が沢山ありますので省略します。

こうして、アインシュタインたちの危惧は払しょくされたのですが、みなさんは納得できましたでしょうか?

この種の議論は一般に量子力学の「観測の問題」というジャンルで今でも研究が続いているのではと思いますが、多分に哲学的な色合いが強くなり、正直筆者にはよく理解できませんでした。

筆者はそれより、ミクロの世界の本質的な曖昧さが、どのようにマクロの世界のつながるか?という問題の方に興味を感じます。シュレーディンガーは「生命とは何か」という有名な書物を世に出しましたが、彼もひょっとして同様な感じを持ったのかも知れません。昨今のウイルスの流行や、RNAワクチンなどの話を思うと、余計にそう思います。