33-3 アリスとボブの合言葉

投稿日 : 2021.10.17


「変な猫」を連れてきたところで、いよいよアリスとボブが秘密情報を安全に送れるパスワード(量子鍵)を作り、実際に秘密情報を送る方法を考えてみましょう。ここでは理想的な「変な猫」にはたらいてもらいます。

まず、アリスとボブは、双方が縦と横のフォトンだけを測定に使うこと、ボブは自分の検出器で信号を受け取ると、その時刻をアリスにインターネットで伝えること、また、アリスが横フォトンを検出した時には、「1」とメモし、ボブは縦フォトンを検出した時には、「0」と記録することをあらかじめ取り決めておきます。二人は仲間だから誰にも知られないように取り決めることは出来そうです。

次に「変な猫」を双方が測定するのですが、アリスがフォトンを観測した場合を凸としますと、それに応じてボブはフォトンを検出しているはずですが、それを凹としましょう。原子がいつフォトン対を放出するかは、ランダムですから、二人は一定の時間間隔で観測を続け、ボブはフォトンを検出すると、その都度その時刻をアリスに伝えます。そうすると、二人の手元には次のような記録が残ります。「・」は時間の刻みです。「・」だけの部分は信号が検出できなかったことを表します。二人の使う時計が狂うと困るので、実際には狂わない時計を二人は用意する必要があります。

アリス:凸・・・凹・・・・凸・凸・・・・凸・・・・・凹凹・・・・・・・
ボブ :凹‥凹・凸・・・凸・・凹・・・凸・・・・凸凸凸・・・・凸・・・

この例では、凸凹がそろったところが4か所あります。相手が欠けているときは、どちらか、または両方の検出器がフォトンを感じそこなったり、もともと原子がフォトン対を出さなかったりした場合と考えられます。さらに重要なのは、誰かが盗聴した場合です。これについては次の節で考えるとして、今はいないとしましょう(いないなら、こんな面倒なことをする必要もないのですが、ここでは話を単純にするためですから、悪しからず)。

そこでアリスはボブからの情報を基に、凸凹の対になっているところだけを選んで、「1010・・・」というコードを作ると、ボブには「0101・・・」というコードができていますので、双方の秘密のコードが完成するわけです。

次に、アリスはボブにある秘密情報を送るのですが、彼女はその情報を画像としてピクセルに分解し、自分の作った鍵と比較して、コードが違うピクセルの場所だけを「1」として、画像全体をコード化して(暗号化、エンコードして)ボブにメールで送ります。

ボブは自分のもっている鍵で、送られてきた画像全体のコードを作り変え(デコード)して画像を復元すると、アリスの送った情報が受け取れるというわけです。

アリスが画像をエンコードする時に、例えば情報を「続け字」画像として、一旦ホログラムに直すのも面白いかも知れません。そうすれば、全体のコードの内の一部だけがボブに伝わっても、ボブは全体の情報を読めるからです。

しかし、実際はそう簡単ではなさそうです。まず「変な猫」は本当に「変な猫」になっているのか?という疑問に答える必要があります。

いくつかの方法があるようですが、ここではベルの考えた「変な猫)度を評価する方法を使うとします。詳しい話は面倒なので結果だけを述べますと、ベルはある量Sを求めてその値が±2より大きければ、「変な猫」度は一応満足できると考えました。アスペは実際にこの量を測定して確認しました。ですから、アリスとボブはいつもこの量をモニターしながら鍵を作る必要があります。しかし、これが万能な「変な猫」度の評価基準とは言えないという考えもあるようです。

ザイリンガーの実験では、鍵を作るための装置とこの「変な猫」度のチェックする装置、そして後で述べるエバさん対策の装置を兼ねるような工夫がされているので、各パーツの役割を分解して理解する必要があります。彼らの場合だけでなく、その他のいろいろなプロトコールを試す工夫を凝らして実験が報告されていて、それらの装置の特徴を比較して論評するのは専門家の総説でも難しいと書かれています。