緒言

投稿日 : 2024.10.13


そもそも生き物はすべて子孫を守り繁栄させるために、草木はもちろん、けだものも、種子や子供をいろいろな組織で暑さ寒さや外敵から守っています。人間も同じで、子孫を愛しまない人はいないと思います。

しかしながら、人間の身体は神業とでもいえるように複雑で実に素晴らしい機能を備えているとはいえ、やはり問題が起きるのも仕方がないものですから、その中で子供を完全に健康に育てあげるには周到な注意が必要です。

小児は自分自身で身を守ることができないので、ひたすら親に身を任せて成長せざるを得ませんから、小児が病気になるのは、親によるといっても過言ではありません。

昨今は日本の文明も進んで公衆衛生の道も拓け、女子教育も盛んになっているのですが、家庭で最も重要な育児の衛生については未だ不十分で、小児が疫病に罹ることも多く、命を落とすケースも少なくありません。それだけではなく、成長後にも身体が弱く、十分に社会貢献ができい人も多いのは、育児の方法の誤りによるものが多いのではないかと思います。

にもかかわらず、育児衛生を習熟して子供を育てられる女性(親)が少ないのは残念なことです。

白金も黄金も玉も何せむに、まされる寶子にしかめやも

という古歌にもあるように、子供ほど貴いものはないでしょう。

少し考えてみても、今は母親の懐で乳を無我夢中で飲んでいる赤ちゃんも、後に国家の屋台骨を支え、歴史に名を残すような素晴らしい人物になるところを、不幸にして病魔に侵されて、身体に大きなハンデ―をもって十分に活躍できなくなったり、重度の知的障害者になったりすることもあり、命を失うことさえあります。

そんな時に後で悔しがったところで何の役にも立ちません。すべて病気というものは、発症したときに起きるわけではなく、日頃の不注意によって起きるものですから、平素から十分注意して防止しなければならないのです。

とくに女性には結婚して子供を産んで育て上げるすばらしい力が備わっていますので、そのつもりになって、自分の乳房から湧き出る乳によって、身体的にも精神的にも優れた子女を育てるという自然なミッションを担っていて、それに勝る人生の喜びはないだろうと私は思い、皆さんもそう思ってほしいと強く望んでいます。

ただ、一言を加えなくてはならないことがあります。というのは親が愛情におぼれてかえってそれが子を弱くすることがあります。

たとえば、気候によらずただ暖かくすればいいといって厚着をさせ、締め切った部屋に閉じ込めたり、欲しがるからといって胃腸がまだ十分整っていない子に不適当な食持を食べさせたりするのはとてもよくないことです。

また、皮膚を強くするといって雨や風の日に外気に触れさせたり、夏の暑い日に日光に当てたり、いろいろなものを食べさせないと胃腸が弱くなるといって不適当な食物を与えるのは避けるべきです。

誰でも知っているように、草木の芽は夏や冬を避けて春や秋の気候が温暖なときに吹いてきます。小児も同じでいきなり極寒や極暑に晒せば、草木の芽と同様たちまちいろいろ障害が起きて命を落とします。

したがって、気候に応じて部屋の温度や衣服に注意を払って、さわやかで温暖な晴れの日を選んで外気に触れさせ少しずつ皮膚の抵抗力を高める必要があり、食事についても同様です。このようなことは後でも述べますが、よく誤解があることなので、ここで注意を促しておきます。