41.精神とその養生
投稿日 : 2024.10.17
小児の精神作用は最初の内は特別の観念を持っているものではなく、ただ五感が受け取る外部の刺激を感じるだけです。
いいかえれば幼児の頭脳は思ったり感じたりする精神の作用はなく、ただ熱いとか冷たいとか、空腹などを感じる程度のものです。したがって心を育てることは、すなわち五感を育てることに他なりません。
心を養うことは父や母や教師の協力によるのですが、まずは新生児の時から慈愛を持って昼夜保育できるのは何といっても母親です。母親はまず幼児の五感が順を追って発育しているかどうかに注意して、少しずつ教えていくことから小児の心を造っていくものです。
その母親の造った心の下地の上に、父や教師が学問や礼儀を教えることによって、幼児は立派な人に成長するのです。したがって、母親はとても大変な役目を担っています。しかし、もし母親の育て方がまずいと、父親なり教師がいくら良い種をまいてもいい実はなりません。
孟子の母親がこのために三度家を移り、また機をやめてその子を戒めたこと(*孟子の母は子のために住む住居を3度移り、勉強をさぼるのは自分が織っていた布を途中で割くのと同じだと諭したという話:今でいう教育ママですが、今はそれが行き過ぎて、子のためではなく母や親の都合になっています)や、楠 正行の母親が彼を戒めた(*神戸の湊川の戦で戦死した父親の正成をみて、息子の正行が自決するのを母が制止し、成人して仇をとれと諫めたという話)にある母は実に素晴らしく、そのおかげで孟子や正行が生まれたのは無理のないことです。(*仇をとれというのは今ではありえませんが)
西洋でも母親が子を教育する点でははるかに進んでいて、母によって優れた人物が育った例は非常に多く、昔も今も優れた人物は優れた母に感化されているもので、母親の影響はとても恐ろしいものです。
乳児はいつも母親の胸元にいて、そこから母の顔を見続けています。言葉を覚えようとするときには母の唇の動きを凝視しています。また少し物事がわかるようになれば、母にいろいろと問いを発します。その時母は十分注意して、やっていいこと悪いことや、事の善悪を丁寧に教える必要があります。
といって、あまりにかわいがって、わがままに育ててはいけません。また決してぶったりしてはいけません。小児に向かってうそをついたり、よくないことをしたりすると、母親を疑っていいことを教えても受け入れなくなります。
小児の心は胃腸と同様まだまだ完全に出来上がっていないので、はじめから難しいことを教えても理解できません。ですから、少しずつ教える必要があるのです。
おもちゃや絵は子供の知識を育てるには重要で、おもちゃは遊び道具だけではありません。ですから、いろいろな色や形のものや、動物や植物の形をしたものや絵を与えて、名前や性質を丁寧に教えましょう。尖ったものや、刃物は持たせてはいけません。また有害な塗料を使ったおもちゃや、飲み込みやすいものは持たせないように。
小児に話を聴かせるのは重要で、特に徳育には重要です。また子供には簡単で正しい言葉で面白く、忠孝、仁義、礼、智、信が含まれた話を聴かせるのがとても重要です。
3~4歳になれば幼稚園に通わせるのもいいのですが、選ぶことが重要です。どうしてかというと、保母がよくなかったり、高度なことを教えすぎたりすると、かえって悪影響があるからです。
小児の脳は6~7歳にならなければ整わないので、その前にはたとえ簡単なことでも勉強はさせてはいけません。早く勉強を教えてもはじめはよく覚えたりしても、多くは後になってみればあまり優れた人にならないものです。
小児は6~7歳になるとようやく自分全体を制御できるようになります。日本では満6歳で入学することになっています。しかし、多くの人が歳を隠して早く入学させ、こんな歳なのに何年生だなんて自慢する傾向があります。これは非常にまずいことです。
ある人の説では、満7歳にならない時には決して勉強をさせてはならない。なぜなら5~6歳のころは考慮をつかさどる脳の最も重要な部分が最も成長するときなので、この時は十分気をつけて保護すべきだとあります。
さて、学校に上がるときになっても、どの子も入れていいかというと決してそうではありません。その子の身体の発育次第で育ちがその年齢に相当していない場合は、1~2年の延期が必要です。
また時に軽い脳障害があるときに、父母には事前には全然わからないので、他の子と同様に勉強を始めると、ほかの子に比べて勉強がはかどらないばかりではなく、子供にも心身ともに負担を強いることになります。そんな場合には1~2年延ばす必要があります。
小児を学校へ入学させたとして親はそのまま放置してはいけません。母親はその子の身体の様子を注意し、学校では勉強を、家では愛を持って教えてください。男子はなるべく活発に、女子はなるべくおとなしく育てたいものです。(*この辺りは時代を感じますが、今なおこのような考えは世に深く浸透している感があります。男女ともに元気に育てることが鉄則でしょう)
今の小学過程は人数も教える内容も多いので、児童にはなかなかハードなものです。ですから家に帰って習い事などするのはいいことではありません。
子供にとって最も重要なことは、身体を丈夫にすることと徳育でしょう。この二つが小児に備わらなければ、知育もできません。
人はいくら知識があっても身体が弱くては役にたちません。特に、最近は軽薄で不徳義な大人が多いようですから、小児もまた軽薄、不徳義を見習うかもしれず、とても注意することが必要です。
不幸にして、身体に障害を持った小児は、5~7歳になってからそのために施設に入れましょう。立派な人に成長しますから、悲しまず養育を怠らないようにして下さい。
終わり
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