表紙と見開きの墨跡

投稿日 : 2025.03.03


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本書の見開きには、福島県三春町福聚寺の住職、玄侑宗久和尚によれば「人を重んずること、躬の如くせよ」、すなわち「我が身を大切にするように、人を大切にせよ」という意味の墨跡が掲載されています。これは、育児書を記すにあたって医師としての姿勢を示したものと思われます。

この墨跡の作者は表紙の題字と同じ、雅号「松香」の「長與專齋」で、当時、医学界や衛生行政の重鎮であり、種痘の普及に大きな功績を挙げた人物です。

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『育児の心得』が書かれたのは日露戦争前夜で、当時の社会は「富国強兵」を掲げ、国家や家長に対する絶対服従が求められる時代でした。女性もまた、家庭に入り、子供を産むことが国家や家のための主な使命とされていた時代です。

亘は儒教思想に強く影響され、忠君愛国の教育を受けて育ちました。そのため、本書に使用される言葉や表現の中には、現代にはふさわしくないものもあります。ここでは、当時の空気をできるだけ残しつつ、現代の言葉や考え方で意訳しています。