はじめに
投稿日 : 2025.03.03
この拙文は、1900年(明治33年)12月25日に出版された育児書『育児の心得』を現代の読者にも親しみやすい形にしたものです。また、今日手軽に利用できるAI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用し、明治時代と現代の小児医学や医療の知見を比較することで、この育児書の現代的意義を探りました。
現代は、科学や技術の飛躍的な進歩により、医学や医療技術が大きく発展し、薬剤の種類も多様化しています。医療関係者の教育制度や医療制度も当時とは異なり、これらのおかげで平均寿命が延び、100歳を超える人々が増加しました。
しかし、その一方で、経済を最優先にする政治や産業界の影響を受け、特に小児や若者を取り巻く医療環境は悪化しているとも言えます。この改善には、医療の原点に立ち返り、社会全体の意識改革が必要です。
特に近年、わが国では高齢化と少子化が深刻な社会問題となり、日常生活に大きな影響を与えています。特に少子化は、労働人口の不足にとどまらず、未来を担う人材の確保という観点からも極めて重要です。子どもたちが健やかに育つ環境を再構築することが求められています。
では、どこから再構築を始めるべきか。この問いを考える際、医学の知見や医療環境が不十分だった明治時代と現代の状況を十分に比較し、今日なお生き続ける育児の理念を探ることがまず重要です。また、多くの進化を経た現代の医療を知り、その上で私たちが抱える課題を再認識することも大切です。
これが、筆者がこの育児書を現代文にし、AIと共に現代の状況を理解するために再読した理由です。
現代の進化したAIは、大勢の人間が作った膨大なテキストデータを基に、人間が入力した問いに対してわかりやすく整理して答えを出力します。つまり、その出力は、最新の人間の知識の平均的な反映とも言えるので、各セクションを個別に吟味する前に概要を把握するのに便利です。ただし、AIが参照するテキストには著作権に関わる情報が含まれている可能性があるため、AIの出力を再利用する際には注意が必要です。
ここでは、まずこの育児書の著者について紹介し、その後、筆者がAIを利用する指針を述べて『はじめに』とします。
なお、育児の理念が時代を越えて継承されている例として、元聖母病院小児科部長、故東恩納洋著『赤ちゃんから幼児まで:育て方のコツ24章』(主婦と生活社)の目次を参考として引用し、付録として追加しました。この育児書は、『育児の心得』が出版されてから80年後の1980年(昭和55年)に出版されたものです。
著者の紹介
この育児書の著者は1866年(慶応2年)6月生まれ、1953年(昭和28年)2月に亡くなった小児科医、長澤 亘(わたる)です。彼は、神戸大学医学部の前身である神戸医学校を卒業後、東京大学医学部の前身である医科大学小児科専科を経て、1897年(明治30年)に神戸市生田区(現在の中央区)下山手通で小児科専門の医院を開業しました。
その後、1907年(明治40年)には、隔離病棟を備えた小児科専門病院を開設し、病院内で最新の小児医学を学び普及させるため、京都帝国大学医学部初代小児科教授である平井毓太郎教授を定期的に招き、医学関係者のための雑誌会を長年主宰しました。この活動を通じて、地元の小児医療や小児科学会の発展に貢献したとされています。また、神戸大学医学部同窓会(神緑会)の前会長、前田盛博士の調査レポートや、複数の同窓会関係者による研究が公表されています。神緑会館の玄関には記念碑も設置されています。
彼は晩年、『88歳夢物語』と題した自叙伝を綴り、彼の死後、医者仲間や縁者によって私的に配布されました。この自叙伝によれば、彼は姫路藩の藩士として姫路城下に生まれました。彼の父は、幕末に家老・高須隼人と共に姫路城の無血開城を実現し、姫路城は戦火を免れました。この功績が、現在世界遺産に指定されている姫路城の保存に寄与したと言えます。
彼の父は息子に「亘」という名前を付けましたが、彼の本当の心は『巡る』というこの漢字の意味ではなく『亙』にあって、激動の時代を乗り越えることを願って付けられたと想像できます。父は息子に薬剤師の道を勧め、後に医療の道に進むきっかけとなりました。
亘は明治から大正、昭和の戦前・戦後を通じて小児医療に専念し、小児科学会の発展に貢献しました。彼の自叙伝には、なぜ小児医療を志したのか、その決意が記されています。1894年(明治27年)の日清戦争の際、彼は兵士として志願しようと考えましたが、子どもの病気を治すことで国に尽くすことを決意し、その誓いを生涯守り続けました。
医科大学在籍中、彼はJulius Uffelmann著『Handbuch der privaten und öffentlichen Hygiene des Kindes zum Gebrauche für Studirende, Ärzte, Sanitätsbeamte und Pädagogen』(「医学生、健康管理者、教師のための、子どもの家庭および公衆における衛生ハンドブック」)を翻訳し、1894年に出版しました。この本は、当時ドイツのロストック大学の教授であったウッヘルマンによって書かれたもので、近代デジタルライブラリーで読むことができます。
『育児の心得』は、ウッヘルマンの書籍を基に、彼の臨床経験を加えたものです。
AIの出力の取り扱い
AIには、現在誰でも利用できるChatGPTを試用しました。まず、育児書の各セクションに共通に次の入力をして、その出力をそのまま本文の後に追加しました。
『次は明治時代に書かれた育児書の一部です。現代の医学的見地からのコメントをください。』
次に、その出力を再入力し、
『あなたのコメントに著作権を侵害するような参照元はありますか?』
と尋ねました。その結果、全てのセクションについて以下のような回答を得ました。
『私のコメントには著作権を侵害するような参照元は含まれていません。私の知識は広範囲にわたる一般的な医学的・科学的理解に基づいており、特定の書籍や資料からの直接的な引用は行っていません。従って、著作権侵害には該当しません。』
AIの性質上、同じ入力に対して出力は同様の概要でも表現が異なることがありますが、私は別日にすべてのテキストに対して独立に操作を行い、同じ結果が得られることを確認しました。
興味深いのは、AIが『著作権侵害には該当しません。ご安心ください』と断言したことです。この真偽を糺すことは無意味なので、ここではその出力を受け入れ、残りは読者に判断を委ねることにしました。
ここでは筆者が興味をもった医学や医療の話題や、最近のニュースで感じた現代の課題についても、関連するセクションでAIと問答する形で入力しました。拙文ではそれら対する出力はすべて「次のページ」に追記しましたが、そのすべての出力に対しても本文に対する出力と同様な取り扱いをしました。
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