7 屈折率と質量

投稿日 : 2021.06.24


これまでの話で、光の進む道筋と物体の運動の軌跡は、数学的には同じ方程式によって予測でき、屈折率と質量は形式的には同じ役割をしていることがわかりました。ここでは、これまでの話の締めくくりとして、この関係の物理的な意味を考えることにしますが、理屈を云々するよりも、たとえ話の方がふさわしいと思います。

東京原宿の表参道を、人気の女優さんが早朝ジョギングしているとしましょう。通りには誰もいないので、彼女は自分のペースでどんどん走ることができます。

しかし、すこし人通りがある時間帯では、彼女は周りの人々に見つけられ、手を振られたり、声を掛けられたりします。彼女はそれを無視して走るわけにはいきませんから、会釈したり、手を振ったりとすこしペースが落ちてしまいます。

もし、もっと人通りの多い時間では(そんな無謀なことをする人はいないでしょうが)周りの人々は群れて近寄ったり、握手を求めたりするので、走るどころではなく、挙句は歩くこともできなくなって危険です。

これは彼女と周りの人々の個別の関わり(ここで物理の言葉を遣えば、双方の間に働く相互作用)によって、走れる速度が変わることです。

このたとえ話を光に当てはめれば、彼女は光、周りの人々は物質を構成している原子や分子の電子です。そして人々の混みぐわいが物質の密度に対応しています。

また、誰もいない道は真空と考えられます。彼女の走る速さは、誰もいないときがいるときに比べるとずっと速くなるでしょう。光も真空を進む時が最高の速度になります。

屈折率は真空中を進む光の速さを、物質中の速さで割った量ですので、密度が高いほど速度は遅く、屈折率は大きくなります。大気の屈折率が地上で一番大きく、上空に行くにしたがって小さくなるのは、上空ほど空気が薄いからです。

屈折率を決めている要素がもう一つあります。それは、その女優さんがまだ駆け出しで、それほど売れていなかったとします。その場合は大勢の人がいても知っている人が少ないので、空いているときのように走れます。もっとも人が多くて物理的にぶつかるような場合は考えないことにしましょう。

つまり、彼女の知名度によって注目度が変わりますので、走れる速さもそれに大きく影響されるのです。

ニュートンは部屋の窓から太陽の光を取り込み、水を三角柱の容器に入れてその光を通して壁に写し、太陽の白い光が色々の色の光の集まりであることを示しました。プリズムで光を分けたのです。

そして、赤い光に比べて青い光、更に紫の光の方が大きく向きが変わることを観察しました。これは水の屈折率が色によって違い、紫色の方が赤い色より大きな値を持つためです。

つまり、色の違いが女優さんの知名度の違いのようになっているのです。光の話でいえば、密度が同じでも、光と物質中の電子との相互作用が大きいほど、屈折率は大きくなります。

相互作用とはエネルギーのやり取りということで、そこには力が働いています。その力が強いとその光の進み方は遅くなるわけです。

ここで、質量mの物体の運動の話に移ります。
質量には、慣性の大きさを表す慣性質量と、重力を受ける強さを表す重力質量があり、それらは実測では同じですが、その理由はのちに述べるアインシュタインの一般相対論で理論的に証明されました。これらと、屈折率との関係を考えましょう。

ある大きさの力で物体を押す時、mが小さいほど速く進みます。ですから、屈折率が小さい場合に相当します。一方、ある重力源によって生まれる重力ポテンシャルがあるとき、mが大きい方が強い引力が生まれます。これは相互作用が大きい物質の中ほど屈折率が大きくなることに対応します。

しかし、これらの相互作用の種類は違い、力の種類も違います。

この違いを知るためには、光がどうして電子とエネルギーをやり取りできるのか?
また、そもそも、光とは何か? 

そして重力とは何か?

という問題を考えることが必要になります。

その出発点は、「光の速さには上限がある」という実験事実です。

これが次からのここでの話題になります。