9-a  怪奇現象が起きるわけ

投稿日 : 2021.07.10


次のグラフは、止まっている世界の座標をx(Vに沿った座標をxとして)とtを直角座標の縦軸と横軸にして、動いている世界の座標であるx’(x、t)とt’(x、t)を示したものです。Lorenz-transformation.jpg

斜めの青い直線は光の進む距離を時間に対して描いたもので、数式で表すと、x=ctになります。ここでは図を描く都合上、c=1、V=0.2としています。つまりVはcの20%としているので、日常の物体の速さにくらべて非常に速い場合に当たります。

ここで黄色の線はx’とt’を直角座標xとtを使って描いたものです。これを見ると、K’の世界の座標軸が、Kの座標軸を青い直線に沿って引き延ばしたようになっているのが分かります(このような座標は斜交座標といいます)。

つまり、両方の座標のマス目の形を見ますと、K’の世界のマス目はひし形で、一辺の長さはKの座標の場合より、伸びています。しかし、この座標で見ても、x’=ct’となり、x=ctと同じ数式の形になり、光の速さは変わりません。

このようにK’の世界では空間の長さと時間の刻みが、Kの世界から見れば間延びしています(1cm、1secの刻みが伸びている)。このため、K’の世界にいる人が自分の持っている物差しや時計を見ると、止まっているときと比べて何も変わりませんが、それをKの世界にいる人からみると、ものさしの目盛りの幅が長くなると、実際のものの長さは何も変わりませんが短くなったように見えます。

また、時間の刻みも間延びする(時計の文字盤の刻みだけが広くなる)ようにみえる、つまり時間の進み方は変わらないのに、みかけなかなか一時間にならないという意味で時間の進み方が遅くなり、時計がKの世界より遅れているように見えるわけです。

光速cより速いものがないという実験事実を説明できるこの理論の当然の結果から、一見おかしな現象がみかけ起きて良いというわけで、これが怪奇現象に見えるのです。

アインシュタインは、1905年に“Zur Elektrodynamik bewegter Koerper”というタイトルの論文を発表しました。その英語訳は、”On the Electrodynamics of Moving Bodies”としてGoogle Scholarで公開されています。この論文は、専門家を目指す人はともかく、この理論を知るには便利です。興味があればぜひで読んでみてください。

この論文の最初にアインシュタインがこの理論を考えた動機が述べられています。

「光の伝わる環境に対する地球の運動が測れなかったという事実は、絶対静止系がないことを暗示している。物理現象を表す原理はどのような環境でも変わるはずはない。だから、真空(空の空間empty spaceと表現している)中の光(の速さ)も変わるはずがない、そう考えて、自分はこの論文を書いた」

絶対静止系がないという実験結果は、宇宙空間を満たしているエーテルという媒体の存在を否定したマイケルソン(Albert Abraham Michelson,1852-1931)とモーレイ(Edward Williams Morley, 1838-1923)の実験結果を指しています。