16-a 事象の地平線

投稿日 : 2021.07.23


どうして事象の地平線に達した物体からの光が私たちに届かなくなるかという理由は、次のグラフを使って説明することができます。

この図は、関口雄一郎氏によるごく最近の丁寧な解説のグラフの一つを引用して、多少の書き込みをさせてもらったものです。sekiguchi.jpg関口雄一郎『一般相対性理論(再)入門講義ノート』2019.11.1.

このグラフの横軸はブラックホールを作る重力ポテンシャルの中心からの距離r、縦軸はその中心へ向かう光の道筋が右下がりの直線になるように工夫された目盛りで描かれた時間です。このような座標はEddington-Finkelstein 座標と呼ばれます。

破線は中心からある距離離れた場所から中心へ向かって引かれていく物体の進む道筋で、4次元空間でのフェルマーの原理で計算したものです。水色の縦線の位置が我々のいる場所で、そこからその物体からの光信号を観測するとしましょう。

物体がある時刻にオレンジ色の丸印の位置にいて、光の信号を送りますと、光は黄色い曲線を辿って進んで、水色の縦線と交わった時刻に私たちはその信号を受取れます。次に物体がピンクの丸印の位置に来て光の信号を送ると、今度はピンクの曲線の道筋を経て届きます。同様にして緑の丸印の位置からだと、更に時間がかかるものの、信号はとにかく届きます。ところが、赤の丸印の位置で送った光の信号は赤い縦線に沿って進むので、これは青の縦線と平行ですから青い線と交わることがなく、いくら待っても信号は届きません。

物体がブラックホールの内部へ突入すると、光は上のグラフの紫の曲線に沿って進むので、絶対にブラックホールの外へ出られません。ですから外部との連絡は絶対にとれないことになります。つまりブラックホールの内部で何が起きていても外部からは分かりません。

ホーキング(Stephen William Hawking、1942-2018)によれば、それでも、ブラックホールの内部の情報も間接的にわかるかもしれない現象が起きるそうです。それは事象の水平線の付近の空間で物質と反物質の対やフォトンの対が生まれることがあって、外側で発生した片割れが遠くから見えるので、ブラックホールは必ずしも黒いとはいえない(ホーキンス放射)そうです。また、この効果で、ブラックホールの内部のエネルギーが短い時間で減る、つまりブラックホールが爆発するそうです。彼の論文によれば、その爆発は1メガトンの水素爆弾の百万倍ほどの威力なので、天体の爆発としてはちょっとした程度のものだ・・と書かれています。そんなものが太陽系の傍で起きては困りますが、どのみちそれが地球に届くには相当時間がかかるでしょうから、その頃のことを心配しても仕方がないですね。

すこし話が大きすぎる方向へ行ってしまったので、今後はもっと身近なミクロの世界へ話を移します。