17ーa ある国の経済
投稿日 : 2021.07.25
日本の通貨の単位は円です。通貨の総量Uは日銀が調整していますので、Uは一定ではなく時々刻々変化しています。また海外との経済活動によってもUは大きく変動します。
しかし、ある架空の国Xでは、海外との取引総額がいつも拮抗しているために、Uは常に一定で、あらゆる経済活動は一種類のxコインだけで行われているとします。したがって、流通しているコインの枚数Nも一定です。
この国のある個人(i番目の人をAさんとします)の所得金額εiは、Aさん個人の経済活動によって常に変動していますが、ある期間の平均所得金額を見積もることにします。この計算はプランクの放射公式やそれまでの歴史、またその発展を考える上で役に立ちます。
ところで、この架空の国では個人の所得額に制限がなく、誰もが大金持ちにも大貧民にもなる可能性を等しく持っているとします。従って、すべてのコインN枚をAさんが全て占有し、それ以外のすべての人が無一文になる可能性は全ての国民に等しくあります。
1887年、ボルツマン(Ludwig Eduard Boltzmann,1844-1906)は、εiがある一定の期間にどれほど変動する(揺らぐ)かを数で表す方法を見つけました。Uが多いほど所得金額のゆらぎ(不確実さ)も大きくなります。
彼はεiの揺らぎのパターンの数(国民一人一人のときどきの所得金額のパターンの数:Aさんがいくら、Bさんがいくら、・・・という状況の種類の数)をW(U,N)として次のような量を考えました。
ここでSはエントロピーとよばれます。U(つまりコインの数N)が多いほどWは増えます。
この式を変形すると、次のように表すことも出来ます。ここでkはボルツマン定数と呼ばれ、光速c、プランク定数hと並ぶ物理学の基本定数です。
さて、Aさんの所得金額がεi(コインni枚)である確率をとします。この確率はAさんを除いた他の国民全体に、U-εiのお金(コインN-ni枚)を分配するパターンの数W(U-εi、N-ni)をW(U、N)で割った数になります。 ここでもう一人のj番目の人について考えても状況は同じですから、となります。
後に示した注のような考えから、この確率は一般に次のように表されます。
、
この式の係数のCは、個人の確率を総人口で足し合わせると1になることから決まります。また、μは各人の所得金額、つまりコイン数をそれぞれ総人口で足し合わせるとNになるという制限から決まる数です。
この確率を使うと、各人の所持する平均のコインの数は次のように求まります。
また、所得金額の平均も次のように求まります。
ここで、ε0はこの国の一枚のコインの価値(10円玉か500円玉かのような価値)です。つまり、 となります。
さて、コインを持ち運ぶのも面倒ですし、コインを作るにも費用がかかります。そこでこの国ではある時からコインと同様につかえる暗号通貨$$を使うことになりました。こうなると、Uは同じでもNは一定とはいかなくなり、Nは0~Nまで常に大きく変動しますので、Nがある一定の平均値の付近で揺らぐとはいえなくなります。このあたりは注を参照ください。
Nが一定だとする前提が崩れますと、μを考える意味がなくなります。その場合のAさんの平均の所得額は、次の式のようになります。
プランクの放射公式は、次のような関係式でした。
この式の後ろの分数の部分は、上の式のε0をhνに替えたものです。つまりコインの単位(日本では円)を光の場合はhνという量に決めたことになっています。つまり、振動数νの光の平均のエネルギーの単位の数は次の式で表せます。
ここでもしhνがkTに比べて非常に大きい光では、分母が非常に大きくなるので単位の数は急激に小さくなります。つまり、実測されるスペクトルの形で波長の短い光の強度が急に弱くなることが説明できます。
一方、もしhνがkTに比べて小さい(波長の長い)光の場合は、この分数は となり、エネルギーの平均はkTになります。したがってスペクトルの形は
となります。この関係式は、プランクの理論が発表されるまでに長らく信じられていたもので、レーリー・ジーンズの公式と呼ばれます。結局プランクの理論はエネルギーには最小の単位がある、つまりエネルギーがアナログではなくデジタルな量であるとしたことが革新的だったのです。なお、プランクの放射公式にいたる歴史については、次のサイトで得られるPDFファイルが分かりやすいと思います。
一方、アインシュタインは、上で述べたNがある一定の数で保たれている場合として、フォトンではなく、質量をもった粒子の気体(粒子同士はお互い無関係に運動するとする理想気体という架空の気体)へ発展させたもので、これから今日ボース・アインシュタイン凝縮という現象を予言しました。このことについては後で触れますので、ここでは省略します。
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余談:本文のスペクトルを表す数式の右辺には、振動数ν2が含まれています。これを導いた人はレーリー卿(本名John William Strutt)で、音響学の研究から導きました。この人物は波乱万丈というか、とてもユニークな生涯を送った学者で、寺田寅彦は面白いエッセイを残しています。彼は、この人物を『「英国の田舎貴族」と「物理学」との配偶によってのみ生み出され得べき特産物であった』と述べています。一読をお勧めします。
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注:W(U,N)をエントロピーSで表すと、となります。そこで次のような比を求めます。
次に、、 ですから、とできます。
ここで、、と Tとμを決めます。
j番目の人についても同様ですので、結局次のような比が求まります。
これは一般に、であることを示しています。
なお、この国の通貨であるxxコインに並行して、暗号通貨$$コインが使えるようになると、流通するxxコインの数はもはや一定とはいえず、つねに大きく変動します。
この場合はの左辺の変化が非常に激しく変動し、平均として打ち消し合ってμがゼロになると解釈できます。これは光の場合で言えば、光が物質によって吸収されてフォトンの数が一定しないことに対応します。
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