21-a COVID-19流行の推移

投稿日 : 2021.08.21


レーザーの原理に関連して、COVID-19の流行の推移を簡単化したモデルで考察してみました。

生物とも無生物とも知れないウイルスと、個人差の多い生身のヒトとの関わりですから、筆者のような素人がみだりに取り扱えるような代物ではないのは百も承知の上で、それでも正確な各種情報が開示されない今、せめてこの流行のありようについて考えておくことは、個人の安全と今後の社会的な終息への道筋を想像する意味で、無駄ではないだろうと思いました。

次のグラフは、厚生労働省がCSVファイルで公表している毎日のPCR検査人数、またはPCR検査件数で、ヤフー・ジャパンのニュースに毎日掲載されている日本全国の感染者数を割った数を求め、その10日の移動平均値をそれぞれ赤と青の〇印でプロットしたものです。corona0-2.jpg検査人数や検査件数の定義はあまり明らかとはいえませんが、「検査しなければ感染者数はわからない」と考え、これらの値がある程度流行の実態を表していると考えることにしました。数値が1を超えているのは、検査人数や検査件数の実態のすべてが明らかにされていないからだと想像しますが、一応、数値の値は気にせず、値の変化だけを見ることにしました。ですから、もしこの基礎データに問題があれば、以下の考察はすべて「ご破算で願います」とします。

グラフからわかるように、流行がこの一年半余りの間に繰り返されています。実際の流行の様子は地域によって違っていますし、感染の個人差も大きいので、これらを考慮できるモデルをたてるのは素人には無理です。しかし、このようにざっくりと色々な効果を平均してみているにもかかわらず、このような流行の波がはっきりと見えることこそがむしろ不思議で、その現象には何か普遍的なメカニズムが隠れていそうに思いました。

もしそのメカニズムの片鱗が見つかって、その特徴が少しでも分かれば、マスクをするとか手をよく洗うとか、密にならないとかといわれる根拠や、今後この流行を抑える対策のヒントにもなるかもしれないと思いました。

ここでは平均的に健康な一個人の体内に入ったウイルスの数xと、体内で感染した細胞の数yの関係を一つのモデルによって数学的に考察しました。

鼻や口、目から体内に侵入するウイルスがまず細胞に取り付いて細胞が感染し、それがもとでその人が感染し、その中からある割合で自覚症状がでて、さらそのまたある割合で重症化し、さらに、ある割合の死亡者が出ます。しかし、これらの各段階は、それぞれ多くの外的条件や個人差に大きく影響されますので、とても簡単なモデルで考察することは素人にはできません。したがって、ここではできるだけ単純化したモデルを考えてみたわけです。

ここでは、次のような連立方程式を立てて考察します。この種の方程式は、ロトカ・ヴォルテラ方程式(Lotka-Volterra equations)という生態系を考察する時によく使われるもので、ここではそれを一部拡張して使いました。まず、体内に侵入したウイルスの数xについての方程式です。

70953eb5f02f612d9c04a19e2d215fc6a26b3bbc.png

ここでXは一個人を取り囲んでいる環境に拡がっているウイルスの数、yはそのウイルスに感染した細胞の数とします。次の右の絵をご覧ください。volterra-model2.jpg

Xは流行に応じたその時の数によって変化しますが、これは間接的にxの変化になりますので、以下ではXはxに置き換えられると考えます。(この仮定は不自然さもあり、このモデルの欠陥と思えますが、とりあえず、そこには目をつぶります)

右辺第1項は、外部から鼻や口からウイルスが侵入する割合を示します。第2項はウイルスに感染した細胞から出てきてxが増える割合です。第3項は、ウイルスが多くの細胞にまんべんなく取り込まれる割合です。このウイルスの大部分は常に細胞に備わっている免疫システムによって破壊され、細胞が感染するのを防いでいるとします。

問題は発病へ導く感染機構ですが、ここではレーザー理論で用いたフォトンの誘導放出のように、すでに感染している細胞の数に比例して、ウイルスがさらに感染した細胞に入る効果を考えてみたものです。つまりCOVID-19の場合は、感染した細胞がさらにウイルスを呼び寄せるのではという仮定です。一方、すでに別のウイルスに感染している細胞では、この効果は逆に働き、COVID-19を退け、その場合はbがほとんどセロだと考えました。細胞の中のDNAがこのような複数のRNAをどう処理するかについては筆者は知りませんので、これはあり得ない仮定かもしれません。

次は感染した細胞の数yについてのものです。

equation(218).png 

最初の項は感染した細胞が減少する割合で、色々な原因が考えられます。しかし、その中にxが増える効果があると考えました。次のグラフは、a=0.1、b=0.2、c=0.01、α=0.01、β=0 として、xとyの時間変化をグラフにしたものです。 69873467968837ca3fe3fa31e35cd1a5cb013655.jpgこのようにxとyに振動する現象が起きます。

これを最初のグラフと形を比較したものが、次のグラフです。figure-corona2.jpg下側のオレンジの曲線は右のグラフのyを拡大したもので、実測値とはかけ離れて見えます。しかし、緑の〇印で示した構造の値を敢えて下の曲線の最大になる位置と対応させると、時間が経てば最大になる値(極大値)は次第に小さくなり、一方最小になる値(最小値)が大きくなる(底が降りきれない)とみることができないかと考えました。

思えば、最初の流行は、札幌の雪まつり(2月4日~)の頃始まって、9月緊急事態宣言が出されたころに最大になりました。しかしこの頃、私たちはよく分からないウイルスの流行というので非常に緊張しました。更に消毒薬やマスクの供給が追い付かないこともあって、人々は自衛策をとって特別に流行を加速させるような行動はしなかったと思えます。2回目の流行も似た状況だったのではないでしょうか。ところが、このままでは経済がダメになると、go-toキャンペインなどの施策が始まり、3回目の流行期には、自然に任せていればひょっとして収まったかもしれないところに、人為的に人の動きを加速させたため、これが年末や新年と重なって、大きな流行を生んだと思えます。その効果はグラフ的には赤の丸印のような山がオレンジ色の曲線に足し合わされたと考えられます。同様な現象が次の年度末や新学期、5月の連休時期に起きたのではないでしょうか。この原因はもちぐはぐな政策と説明不足によって、人々に政策に対する不信が生まれ、緊張感を薄れさせたために見えます。さらに、オリンピックというイベントが、オレンジ色の曲線の次の最大値に重なって、非常に流行が促されたとみることを否定できません。グラフに書き込んだオレンジ色の縦線がオリンピックの始まった7月23日です。

こう考えると、とにかくXのいかんにかかわらず、ウイルスを体内へ入れなくしてaを減らす意味で、マスクや手洗いの徹底は非常に効果があるのがわかります。また、Xを減らすために換気や、蜜を避けること、町や公共の乗り物、その他の徹底的な消毒が有効でしょう。ワクチンはおそらくbやcを小さくするのに役立っているのだろうと思いました。また、このモデルの限りでは、変異株の効果もこの係数に含まれているように感じます。bの値が小さくできれば、流行の周期を広げて、対策を実施する時間的余裕が生まれそうです。もちろん、ワクチンが重症化を防ぐために大きな意味があるとされますが、これについてはこのモデルではもともと考慮されていません。

何よりも流行を抑える方法は、施策を実施に移すタイミングではないでしょうか。すくなくともこれまではウイルス量が多い時にわざわざ人の動きを活発化させてきたと思えます。経済優先といいながら、却ってそれが甚大な損害を招いてきていることを然るべき人々は自覚すべきではないでしょうか。速やかに損害を補てんする施策なしに自粛を促すのは、机上の空論です。施策による実害がなさそうに思える机の前で施策の原案を練る方々は、その前に自分たちの手や足や目を使って流行の現場や被害状況を把握すべきです。それで多少施策が遅れても、すぐにその遅れは取り戻せるのではないでしょうか。

特に、流行が下火になったときには、xとyの値を徹底的に減らす作戦が有用ではないかと思います。そしてこの間に次の流行に備えて、重症化を抑えて回復へ向かわせる医療システムを間髪入れずに整備すべきだと思います。そうでなく、今までのような施策を続ければ、本来なら次第に落ち着くはずのウイルスの量xがいつまでたっても減らず、イベントがあるたびに大きな流行が繰り返される危険があるのではと、こんな簡単なモデルからも想像できます。bやcを減らすことの重要性はもちろんですが、やはり、なんとかaを減らすことも効果的に思われました。

このようなモデルによる解析では、複数の係数の決め方で、どのような解も作れるし、とくにxとyの積が加わる数学的には非線形と呼ばれる項を含む方程式では、係数の微妙な違いが非常に大きな効果を予想させるという難しさがあり、一つの解が正しいという保証はありません。したがって、違ったモデルでの吟味がどうしても必要です。この計算は標準的なルンゲ・クッタ法によるものですが、計算過程の途中でそれぞれの係数を個別に変化させて、過渡現象として解析するもっと有効な計算法をその道の専門家の皆さんはご存じのはずなので、その解析が速やかな収束に向けての施策に反映されることを期待したいと思います。