30-a 補足

投稿日 : 2021.09.29


電子と電磁場との相互作用によって起きる光学現象は、

equation(286).png

という方程式から理解できますが、その時には、equation(287).png 

という波動関数を仮定して上の方程式に代入します。そうすると、波動関数ではなく、時間に関係する係数a(t)についての複雑な連立方程式になって、正しくは解けません。そして、つぎのような積分がいろいろと登場します。ここではそれをMと呼びます。

ここで電子と電磁波との相互作用V'が次のように表すことにしますと、equation(294).png Mは次のようになります。

equation(293).png

ここでjやkは1~nまでの整数ですが、その中から、j=i とj=fという二つのエネルギー状態についてこの量を簡便に表すために、Mを次のような記号で表現することにします。 なお、ここで46630ea27c7d9df2b26e2be15de017806e7182a3.pngc0c2209fea7f68a10d2e8ec0dc7ce6eb46359e73.pngとしています。また、数式を簡単に表す記号として、9f6cb8e7e66d199ebf214648ba448b77c8abd86c.png とc67cc4721552a312db7e1a037911e8a187d0520d.png を使い、全空間での積分をequation(298-2).jpgで表します。そうしますと、Mは次のような積分になります。85d4b558c9ec1e035b78b04b3d9e0a3f16da8d06.png

Mには、iやf以外の組み合わせの積分も沢山あり、値もそれぞれ違いますが、ここでは話の都合上どれもMとしておきます。

実際の計算では、Mが一つだけの場合だけでなく、色々なものが2個、3個と掛け合わされたものが限りなく出てきます。ここでは簡単な例として、始状態の電子が、光との相互作用によって終状態になる(遷移するといいます)過程をいくつか示しましたが、一般には無数にあります。しかし、それらをいちいち計算するまでもなく、どんな時にどのような光学現象が起きる可能性があるかは、Mの数学的性質だけからわかります。ここではそのわけを紹介します。

Mには2つの重要な数学的な特徴があります。

一つは、時間によって変化する指数関数の効果で、カッコの中には3種類の周波数が含まれています。そのうち2個は波動関数の振動、もう一つは電磁場の振動です。一般にはこの組み合わせは無数にあり、カッコの中は0を中心に正負の値で三つの波が勝手に振動しますので、合わされば消えてしまいます。ところが、ちょうど括弧の中がゼロになる組み合わせの場合に限っては、Mは時間によって変動しません。この特別な場合は、ちょうど電子の二つの違ったエネルギーの差が電磁場の周波数に等しくなったときです。この時に電子のエネルギーが電磁場の効果で変わる可能性が大きいことがわかります。

もう一つの重要なことは、Mの空間積分、equation(298-2).jpg、が座標の原点に対して+とー側のすべてで積分するために、もし、積分される量(被積分関数)の値が+側とー側が同じ値で符号が反対の場合は、Mはゼロになります。この時は時間的な先の条件を満たしていても、空間部分の性質から、そのような光学過程は起きないことが予想できます。

被積分関数は3種類の関数の積ですので、それが全体として原点に対して符号が同じ偶関数の場合にだけMがゼロではなく、その光学過程が起きる可能性があります。

また、方違いが例に出来るような光学過程では、Mの空間積分小部分はたとえば、equation(300).pngのような形になります。ここでlが中間状態で、無数のお寺に対応します。しかし、実際は無数ではなく、iとl、lとfのエネルギーの差がなるべく少ないお寺が優先されるようになることが、計算からわかります。

原子や分子の電子による光学過程では、V'としては電気分極と電場の積で表される相互作用が強いことが知られています。その場合、Vは電子が電場によって揺り動かされるために生まれるフックの法則による振動するずれに比例しますので、数学的には奇関数です。したがって、素過程としてのMでは、始状態と終状態の波動関数は、どちらかが奇関数で、全体として偶感数でなければ光学遷移は起きません。

量子力学で起きるミクロな現象では、このような波動関数や相互作用の実空間での幾何学的な性質がおおきく影響しています。波動関数の幾何学的性質はポテンシャルの形と同じです。

このようにものごとの幾何学的性質は対称性とよばれ、物理学ではいろいろと活用されます。