17 revived interest

投稿日 : 2021.12.31


右の図は、前の節16で示した図と同じものです。10aa6e1a22a010a932a66539528bbf19729abd38.jpg新しい発光帯が現れるのは2a5b3eac157f7a35e604f52785b4a97baf5684ad.pngが d9e0961f2cfb470c01746207af00e9e0b328da7e.png と 0e71726141208dba64c69f033e13bc9f416ccae8.png 間にある場合でしたが、それ以外ではM発光と同様な発光が現れます。

ここでそもそもML発光とはどのような光学過程によって起きるのかを、次の図で示したSoumaらのモデルに戻って振りかえってみます。fee751ba9cbda9decd16042a172fc01e9062d707.jpgこのモデルは励起子分子の発光のメカニズムとして定着しています。

この発光スペクトルの特徴は、右の絵で描かれているように、励起子分子の集団の速度分布(マックスウェル分布)を反映して、高いエネルギー端のエネルギーが波数ゼロの励起子分子の発光の位置になり、強度が最大になるエネルギーとの差が、励起子分子系の温度をTとすると、kT/2となることです。なお、εは発光帯の高エネルギー端から低いエネルギーの方へ測ったエネルギーです。つまり、ε=0での発光は波数ゼロの励起子分子によります。

通常、試料が液体ヘリウムの温度4K以下に冷やされていても、ML帯から評価できる励起子分子系の温度は20K程度となり、これから励起子分子系に対する熱浴は格子振動ではなく、励起子ではないかと考えられています

次の図は上のスペクトルを違った表現で表したものです。hatano8.jpgこのML帯のような発光帯の形がba264d8f86720c86085b448e0052d7b685eb122e.pngによって変化する様子を見やすく表したもので、手前からba264d8f86720c86085b448e0052d7b685eb122e.pngが 0e71726141208dba64c69f033e13bc9f416ccae8.png より高いほうから低い方へ変化させたものです。つまり最初に示した図とはスペクトルを並べる順が逆になっています。

ここで白く見える縦線はML帯の高エネルギー端を表します。これから、ba264d8f86720c86085b448e0052d7b685eb122e.pngが 0e71726141208dba64c69f033e13bc9f416ccae8.png  に近くなるにしたがってε=0との差が小さくなっているのが分かります。つまり励起子分子系の温度が冷えているように見えます。この図で見えるその差が最も小さく見える場合の温度は4~6K程度となり、通常の20K程度からは一桁低くなります。

この現象を理解するために下の図のようなモデルを考えてみました。hatano7.jpg

今の実験では、ba264d8f86720c86085b448e0052d7b685eb122e.pngでは基本的にまず電子系の基底状態Gから横波の励起子が沢山できます。この図の一番下の青色の上向きの矢印です。この励起子は互いに衝突して励起子分子になります。斜めの青色の矢印で示しました。こうしてできる励起子分子は、前の節16で述べたように、ba264d8f86720c86085b448e0052d7b685eb122e.pngの光で散乱して横や縦の励起子に分解します。下向きのオレンジの矢印のような過程です。こうしてできた励起子が横波の場合はポラリトンとなって縦波の励起子に比べて速く運動して拡がり、縦波の励起子に比べると濃度が速く低くなると想像できます。一方縦波の励起子は互いに衝突して励起子分子になることもできるでしょう。

もしこのような一連の過程が、ba264d8f86720c86085b448e0052d7b685eb122e.pngによって起きた結果、励起子分子の温度が下がったとしますと、励起子分子が光で散乱される過程で、熱分布している運動エネルギーの大きい(波数の大きい)励起子分子の数は、もともと相対的に少ないので、運動エネルギーの小さい(波数の小さい)励起子分子よりも速く消える関係で、波数の小さい励起子分子の数が相対的に多くなり、別の言い方をすれば励起子分子系の温度が下がると思えます。

このような 光による励起子分子の 生成と消滅の 過程がある 条件でバランスすると、 励起子分子系の温度を光学的に下げる、ちょうど アルカリ原子系での BEC の生成 の際に非常に有効に機能した 蒸発 冷却法に よって温度が下がることに似た 機能 を、この光学過程が備えているかもしれません。また、フォトンのBECを実現したローダミン分子溶液の場合に比べてみることは興味深いと思います。この場合は。ローダミン分子の発光帯と吸収帯が重なっていて、ローダミン分子が熱浴となり、フォトンの数が保存するので、化学ポテンシャルが意味を持つとされます。励起子分子の場合は、熱浴を励起子とすれば格子振動とは無関係に、励起子分子の数が保存されて、化学ポテンシャルが意味を持つ可能性はないかと考えられます。もしそれが実現するなら、 今の場合のように励起子分子 系の 温度が4度まで 下がった段階で位相共役信号をモニターできれば、BECの 臨界密度は 20 K の場合に比べて 一桁ほど下がるのですから、 筆者らの実験 から 得た 波数k~0の付近に供給された励起子分子の密度 が10 17 cm -3 程度でも、理論的に予想される BEC の 臨界密度~10 16 cm -3に実際に到達したことが顕著に観測できるのではと思いました。

このモデルに現実性があるかどうかは、励起子分子の内部構造や生成過程をもっと詳しく分析できる実験を重ねることが重要でしょう。Miyajimaらの実験はその意味でも興味深いと思いました。

次の絵はこれまでBECが作られたり、作ろうと試みられたボソンの空間の想像図です。左は冷却原子の場合で、磁気トラップと光冷却、蒸発冷却を併用してBECが実現しました。真ん中は、亜酸化銅の励起子のような場合で、励起子は試料の表面による高いポテンシャルの壁の中にいて、その空間の一部にひずみによるトラップを作って、そこへ励起子を流し込んだり、2光子吸収で狙い撃ちして作ったりします。量子井戸のような場合は井戸がポテンシャルになっています。これらの場合は格子振動が熱浴として機能します。一方、光の場合も微小なキャビティ―に光を閉じ込めますが、閉じ込められる光を放出したり再吸収したりする分子溶液が熱浴になります。右側は塩化銅の励起子分子の場合で、やはり試料の壁が高いポテンシャルになり励起子は外へ出られませんが(ポラリトンは出られます)、内部ではポテンシャルはなく自由に動けます。しかし励起子分子はレーザーの光が強く絞られて、励起子の密度が高い領域でのみできるために、その空間が壁のないトラップのような働きをするとも思えます。上のモデルでは、その領域から光によって波数の大きい励起子分子を励起子に変換して、その領域から逃し(縦励起子は逃れ方が遅いので生き残り、再び励起子分子になる確率が大きい)励起子分子の温度を下げている。この場合はおそらく縦波の励起子が熱浴として働いていそうです。したがって、そこで位相共役波を生むように波数ゼロの励起子分子を作ると、そこが種になってBECが起きるかもしれないというわけです。

final2.jpg

もしこのモデルが実験でまた理論的に吟味できれば、revived interestになるかもしれません。筆者の考えでは、励起子分子とポジトロニウム分子のBECの探査はなお残された興味ある基礎的な課題だと思っています。

筆者がこのように想像した動機は、筆者が励起子分子の2光子吸収を観測した半世紀ほど前の経験によります。当時は試料をいれたガラスの魔法瓶を減圧して超流動ヘリウムを作り、1.4Kほどに冷やします。ある時、試料に電界を掛ける実験を試みたことがあります。超流動ヘリウムに浸した試料の電極に電界をかけたところ、電極の部分で煌々とヘリウム気体の放電が起きたのです。まったく泡のない透明な液体の中での美しい光は実に印象的でした。もちろん、その部分の温度は高いはずですが、熱は速やかに液体の表面へ伝わりますので、表面のヘリウム原子は蒸発をして液体は減っていきます。この放電の起きている空間は外部から見ても泡の様な境界があるようには見えず、そのあたりの熱の分布がどうなっているのだろうと不思議に思ったものです。これとBECとは直接関係なさそうですが、特に特別の枠がない空間でもこのような大きな温度勾配が発生して安定に存在できる状況は、上で想像したモデルとどこかで関係していそうに思いました。