4 ガラクタ装置を作るおもしろさ

投稿日 : 2021.06.09


筆者の顕微鏡はネットで購入したジャンクです。「壊れているので、そのつもりで」というコメントがついていました。顕微鏡の心臓部は光学系です。しかし、その部分が壊れることはめったにありません。大抵は機械的な部分なので早速購入しました。どんなボロボロかと思いましたが意外や意外、光学系はほとんど無傷、接眼レンズはもちろん対物レンズもいくつもそろっています。しかも、双筒タイプで、鏡筒ではなく試料ステージが上下してピントをあわせるというありがたいものでした。確かに壊れた部分もありましたが、すぐに修理できました。こんな装置がまるごと廃棄されたとすれば、顕微鏡を作った技術者が悲しまれるかなと思うほど結構なものでした。system.jpg

右の写真は最近購入したウェブカメラもつけた装置の心臓部です。左は普通の顕微鏡像を記録するウェブカメラの部分、右は接眼レンズの前に挿入した分光器(直視分光器用のプリズムを使った手造りです)のスペクトルをテレビカメラで記録する部分です。光学軸の微調整は接着テープの絞め方を加減して行います。プリズムを使ったのは広い波長領域を一度に記録できるようにするためです。

スペクトルの像は中古のすこし感度の高い白黒のCCDカメラで記録します。このビデオ信号は、処理速度が遅くて廃棄した長尺のPCI拡張グラフィックボードを古いPC(ケースの奥行きが長いので捨てずにいたものです)に挿入し、ある方に頂いたWindows用のソフトで解析しました。

アブラムシの全体像を見ながら、試料の特定の狭い場所からの発光のスペクトルを同時に記録したいので、両方のテレビに映る像の実効的な倍率を調節しました。

次の写真は分光器のプリズムを外し、スリットの幅を広げた状態で、金属メッシュの顕微鏡像が両方のテレビで見えている様子です。左のカメラで記録されている写真の、黄色の丸のなかにあるメッシュの左下の先端が、右側のテレビには、分光器の広げたスリット面に拡大されて映っています。このメッシュの開口部のサイズは非常に正確に10ミクロン四角です。一方、スリットの狭い隙間に入る試料の縦の長さはおよそ200ミクロン程度、また、実効的なスリット幅に入る横の幅は数ミクロンですから、この装置では試料のその範囲から出る発光のスペクトルが一応記録できます。試料の上で縦一線にずらっと並んだ部分からの広い波長域のスペクトルが、可視光領域に限られますが同時に記録でき、これが共焦点顕微鏡と少し違うメリットでしょう。

この写真のピントはすこしボケています。光学系全体の正確な調整はすこし根気いる作業です。ここでは空間分解能はそれほどいらないので、とりあえずその作業をちょっとさぼったためです。

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次に分光器の部分にプリズムを入れ、スリット幅を狭くして、波長較正用の水銀の発光スペクトルを測定した結果が次の写真です。

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波長較正用の標準光源がないので白色の蛍光灯を使います。これには水銀の蒸気が使われていますので、あまり精度を上げる必要のない時には十分役に立ちます。もっとも波長がきまったLEDをいくつも用意できれば替わりに使えます。ここでも波長較正の再確認のために緑のLEDやレーザーポインターの赤の光も使いました。

左の写真の2本の白い水平の直線の間の区間のスペクトルを平均したスペクトルが右側のグラフです。横軸はピクセルなので波長に直すために波長較正がいるわけです。この顕微鏡は普通の光学顕微鏡ですので、レンズなどのガラスの材質によって紫外線はブロックされます。可視光の発光をみるために中心波長が375nmのLEDを使いましたので、この光学特性はかえって好都合でした。

本当はもっとスリットの幅を狭くして波長精度を上げた(狭いバンドパス)のスペクトルを記録したいのですが、その分、カメラの光電素子に入る光量が減るために、感度のもっと高い高級なカメラが必要になり、それはホビーの領域から外れます。多数の画像を積分してもいいのですが、この場合はPCのメモリーがパンクしたり、時間がかかってその間にアブラムシの状況が変化してしまいます。