3 カーブする光
投稿日 : 2021.06.19
光をカーブさせることは、ゼリーの材料を使って観察できます。
ゼリーの材料として売っているゼラチンかアガーを湯に溶かします。そこへ薬局で売っているグリセリンをドバドバと混ぜます。濃いほどいいと思います。手のひらに乗るぐらいの透明で四角な容器にそれを半分ぐらいの深さまで流し込み固めます。十分固まったのを確かめてから、その上に同じぐらいの量の水(湯ではありません)を注ぎ、適当な時間待ちます。
水とゼラチンの境界面より少し深い場所に、少し上向きにレーザーポインターのビームを通します。さて、どうなったでしょう? 次の写真はそれを横から見た写真です。赤いレーザービームが湾曲しているのがわかります。水を注いだ時からずっと見ていますと、始めは光は直進してみえますが、次第にこのように曲がるのがわかります。
このようにゼラチン濃度に勾配ができるのは、ゼラチンに溶け込んでいるグリセリンが少しずつ溶け出すからです。したがって、もともとのグリセリンの濃度や、気温によって曲がる程度は違います。グリセリンは容器の中の濃度が同じになるように拡散していきますので、曲がり方は小さくなりやがて直進するようになります。これはエントロピーの増大の法則の実例です。
こののようにグリセリンの濃度に勾配ができているときの屈折率は、おおよそ次のグラフで表すことができます。オレンジ色のグラディエ―ションはゼラチンの中のグリセリンの濃度分布の想像図です。適当な深さでは、屈折率はオレンジ色で示した式のように、おおよそ直線的に変化していると見做せます。aはその直線の傾きの大きさを表します。
この領域での光の道筋は、フェルマーの原理によって理論的に再現できます。詳しくは3-aを参照ください。
次の図はその結果のスケッチです。ここで、v0は、レーザービームを入射させる傾きで、z=0での ý のことです。
図の下の式は、この曲線を表す光の進む道筋と、傾きを表します。それぞれ放物線と直線になります。
ところで高校などで物理を習われたり、受験勉強をされた方は、この式を見て何か思い当たることはないでしょうか?
ここで、zを時間tに、aを重力加速度gに置き換えてみるとどうでしょう。
ボールを投げあげたときのボールの飛ぶ軌道とボールの速さを表す式になっています。これはニュートンの運動の法則から計算できました。例のf=mα です。
フェルマーの原理を参考に、物体の運動の基本原理を見つけた人がいます。この原理からニュートンの力学の公式が導かれるだけでなく、もっと深い意味も表します。この原理はモーペルテュイの原理と呼ばれています。この原理は次に数式で表されるSが最小になるように物体は運動するという原理です。
ここでmは物体の質量、vは速度、カッコの中は運動エネルギーです。この式は、物体がある時刻からある時刻までに進む道筋は、その間の運動エネルギーの総和が最も少なくなるように決まるといえます。ですから、
光は最も短時間で目的地へ着くように進みましたが、物体は最も省エネルギーで進むものだといえそうです。
さて、質量mの物体が地上の重力を受けながら落下するときには、全体のエネルギーEは、基本的には運動エネルギーと重力ポテンシャルmgyの和なので、3-bの手順に従って次の運動方程式がオイラーの方程式として導けます。
ここで、重力がない場所を考えると、この式の右辺はゼロです。これを、前に述べた屈折率が場所によって変わらないとき、光の進む道筋が直線であることを表す、次の方程式と比べると、n0をmに置き換えた形になります。
ですから、光の直進と、物体の速度(速さと方向を表します)が変化しないことが、対応しているのがわかります。物体の持つこの性質を、ニュートンは慣性の法則と呼びました。
なお、上で述べた屈折率の変化は自然界でも実現します。春先に富山湾の海上や琵琶湖の湖上で見られる蜃気楼がそのために起こります。これは水温が気温よりぐっと低く、水面に近い領域で空気の密度に勾配ができて、上の図のような屈折率の分布ができるからです。また、同様なことは地球規模の大気でいつも起きています。大気の密度はいつも大きく揺らいでいますが、時間的に平均すると、地面近くでは上空に比べて空気の密度が高く、屈折率も地表がもっとも大きくなります。このために星の光が大気圏で曲がって、地上から見える星の位置が本当の位置からずれてしまいます。これは大気差と呼ばれる現象です。この効果を補正することが万が一の備えとして船乗りには必要なのだそうです。
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