4 ピサの斜塔

投稿日 : 2021.06.21


ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔の上から「軽い物体と重い物体を同時に落として、地上に同時に着くことを実証した実験をした」という話は有名です。実際斜塔の入り口には、彼がこの塔で力学の実験をした、と大理石の壁に刻まれています。IMG_1247.JPG

質量mの物体が重力だけを受けて落ちるときの運動は、次の方程式で表されるのはすでにお話しました。

347001e88e46a103c8728095dbb742b9844bd138.pngこの式はおそらく力学の方程式で、現在の私たちにももっとも深刻にかかわるものだといえます。その理由は、この方程式の左辺と右辺に共通にmがありますので、それを数式から除くことができる事情のためです。つまり、物体は重くても軽くても同じように運動することがわかります。これがガリレオが示したことです。

この結果、地上から測ったある高さからyから物体を落とすと、次の式に従って、物体の高さyは時間と共に変わります。equation(18).pngこれは時間に対してグラフに書けば放物線になります。これは物体を真上か真下に投げたときの式ですが、もし斜めに投げ上げたり、投げおろす場合には、横方向の運動には横向きに働く力がないので、慣性の法則から同じ速さで動きます。したがって、、横方向の移動距離xはx=vx0・tとなります。ここでvx0は横方向の速度です。したがって、上の式のtをxをvx0で割った数と入れ替えれば、物体の軌跡も放物線になります。

現在アイスランドでは火山が活発化して、マグマがどんどん火口から流れ出ています。地下からブクブクと昇ってくる火山ガスの泡が火口で破裂して、そのために溶岩が吹き上げられ大小の無数の雫となって吹き上げられています。その様子を示す動画が沢山YouTubeでみることができます。次の写真はその様子をスマホの長時間モードで撮ったものです。どの雫も放物線になっているのが見えます。幅が違うのは飛び出す時の横方向の速さの違いによります。iceland.jpg

落下といえば、3.11の大地震と津波で、福島第一原子力発電所で大事故が起きました。その時5号機の原子炉の事故で大きな爆発があって、上空にたくさんの重そうな物体打ち上げられ落下する様子がテレビで放映されました。その様子の映像はYouTubeに残されています。吹きあげられた原子炉建屋の中の物体が、120mあるという排気塔より高い高さから落下しているのが見えます。それを詳しく分析すると、どこから打ち上げられたかとか、物体が上空で爆発して分裂する様子、爆発のエネルギーの概算や爆発の種類の概要などが、上の式を使った高校生の演習問題レベルの解析で相当分かるはずです。しかし、詳しいことは発表されていないようです。

次は絶対に起きてほしくない事故について考えてみます。

現在は上空を頻繁に航空機が行き来しています。空港の周辺では巨大な旅客機、軍事基地の周辺では軍用機、また山間部や農村部でもヘリコプター、軽飛行機、ドローンなど、町の上空と同様に飛びまわります。今後宅急便などがドローンで運ばれるようになれば、もっと頻繁に私たちの頭上にこれらが飛行するはずです。これらはたくさんの部品でできています。それらは大きいものからネジ一本まであります。整備作業は大変ですが、どんなに注意していてもどこかに不備が発生して、機体から外れて落下する危険があります。重要なことは落下する物体の質量に関係なく落ちてくるということで、ガリレオの示した通りです。hikouki.jpg

空気の抵抗や浮力など、また風の影響などもあって、現実にはここでのような簡単化した話は出来ませんが、ネジが一本でも、エンジンの脱落、機体そのものの墜落という大事故でも、基本的には同じように落ちてくるということは、いつも知っていていいことではないでしょうか。落下物に直撃されればただでは済まないのはすぐに想像ができます。

例えば東京都心で南風の時に羽田空港へ着陸するルートを飛ぶ旅客機を例に考えてみます。

高度y=1000mを、飛行速度vx0=0.1km/sec で飛ぶ機体から何かが落下したとすると、落ち始めた位置から前方およそ1.4km 離れたところが地上の落下点となります。また地上に落下するときの角度も計算でき、大体30度から40度ぐらいとなるはずです。相当空港から離れている場所で落下し始めても、近くでも結果はそう変わりません。

また飛行機が滑走路へ向かって旋回して降下する地域では、軌道の接線方向に物体は飛び出しますので、落下点も予定空路の外側へ拡がるでしょう。落下物の形によって、空気の抵抗や風の効果で落下点の範囲は拡がります。

もし脱落事故があれば、都心の繁華街の高層ビルの窓へ斜めから落下物は飛び込んでくることも十分あるでしょう。高層マンションの屋上もそうですが、住宅の窓から何かが飛び込んでくることもありそうです。転ばぬ先の杖はあるのでしょうか?