Jan Holzerの視点(その1)

投稿日 : 2022.05.25


ウクライナの戦争も長期化が懸念される中、これが東アジアにも現実に拡がる気配が感じられる今日この頃です。そんな中、ブルノ(チェコ)のマサリク大学社会学部の教授で政治学者のヤン・ホルツァーの興味深い視点をネットで見つけました。

マサリク大学のサイトでは、3月8日に社会学部では、今回のロシアのウクライナ侵攻に対する討論会が行われ、その会場の写真の向かって右端の人物がホルツァー博士です。侵攻が始まってまだ日の浅いこの時期に、すぐにこのような集まりが大学で開かれている様子は、羨ましくみえました。日本の大学では、大学の公式見解のようなものはありますが、学生との討論会は開かれているのでしょうか?

ここではこの学者の視点を知る二つのサイトをメモします。まず、この大学の社会学部のサイトに掲載されている彼の見解を紹介します。(本当は許可がいるところですが、大学のサイトなのでご容赦いただけるだろうと英語版をもとに勝手に翻訳しました)これは2月25日の記事です。

”Holzer: Russia was, is, and will be as strong as the West allows it to be”
On Wednesday, the day before Russian armed forces invaded Ukraine, M Magazine sat down for an interview with Jan Holzer, a political scientist from MU’s Faculty of Social Studies.:News 25 February 2022

『ホルツァー:ロシアは過去も現在も、そして今後とも西側が我慢できる範囲の強さを保つだろう』
ロシア軍がウクライナに侵攻する前の水曜、Mマガジン(大学の雑誌)は社会学部の政治学者ヤン・ホルツァーとのインタビューを行った。

なお、本文の欄外のコラムに、大きくこの学者の結論が示されています。"Currently, I see no mechanism that would prevent Russia from doing what it wants in Ukraine"『ロシアがウクライナでやっていることをどうすれば防げるかは、今、私には分からない』

さて、本文です。

”Imagine a situation where an adult looks on as a youngster first humiliates a child smaller than him then starts hitting them. And that grown-up is more interested in whether his hair looks good or whether there is a stain on his shirt. That youngster should have gotten a few slaps in the face a long time ago, but that’s not the way things are done today”

This is how political scientist Jan Holzer from the Department of Political Science at the MU Faculty of Social Studies describes the West’s behaviour towards Russia and what the West is willing to do to stop Putin’s aggression.

『チンピラが自分より弱い子をコケにして、やがて殴り始めるのを見ている大人を想像してください。(実のところ)その大人も、自分の髪がきれいかどうか、シャツにシミがあるかどうか(だけ)に興味があるのですがね。このチンピラはとっくに数回ビンタされていてもいいはずなのですが、最近はそういうわけにもいきません』

本学社会学部政治学科の政治学者ヤン・ホルツァーは、西側のロシアに対する行動と、プーチンの侵略を止めるために西側が何をしようとしているのかについてこう表現している。

“In the event of a conflict, the West is stronger. I assume that we would agree that the West is stronger economically, technologically, and materially. But the West lacks, at least for now, the will to act. That is something that Putin evidently isn’t lacking. And so, he does what he feels he is and will be permitted to do,” explains Holzer, who has studied the politics of the post-Soviet space for 30 years. “We focus on trivial things. All we can do is show our solidarity and impose economic sanctions, but at this point Russia is already ready for and used to them. Currently, I see no mechanism that would prevent Russia from doing what it wants in Ukraine.”

『紛争が起きれば西側の方が強い。経済でも技術でも物質的にも西側の方が強いだろうと大方が思うように私も思っています。でも、少なくとも今のところ西側は動く気はなさそうです。一方、プーチンサイドは不足は全くないですね。自分ができること、許されると思うことをやります』ソ連圏の政治を30年間研究してきた政治学者の彼はそう述べた。

『私たちはつまらないことをしています。できることはと言えば、こちらが団結して経済制裁をすることだけなのですが、ロシアはその準備ができていて、経済制裁には慣れているのです。今のところ、ロシアがウクライナでやりたい放題するのを防ぐ手立てはなさそうです』

The military invasion of Ukraine was preceded by a speech from President Putin. But what Putin spoke about did not surprise this professor from the International Institute of Political Science.

ウクライナへの軍事侵攻に先立ち、プーチン大統領は演説を行った。しかし、この内容にこの学者は驚かなかった。

“Ukraine is part of a classic story that President Putin has now presented and with which he is trying to reach the Russian people and the European public. At its core is the idea that the fact that the primordial foundation of Russian statehood is Kievan Rus, that is, the territory of present-day Ukraine, justifies the Russian occupation of this area and restoring relations with and protecting the Russian-speaking people there. He is telling the Russians a comprehensible tale about historical politics, part of which is territorial nostalgia for the Soviet era,” notes Holzer.

『ウクライナは、プーチンが演説で述べ、それでロシア国民とヨーロッパ国民の双方に訴えようとしている古いお話の一部なのです。その話の核心は、ロシア国家のルーツが、現在ウクライナの領土となっているキエフ・ルスなので、ロシア人にはその地を自分たちのものにして、ロシア語を話す住民との関係を回復し保護する権利があるというテーゼなのです。ソ連時代の領土へのノスタルジアを持っているロシア人たちにとって、これは分かりやすい政治の歴史物語です』とホルツァーは指摘した。

According to Holzer, Putin’s actions can primarily be explained by issues related to domestic Russian politics. International politics is an imprint, a reflection of what Russians need to communicate internally. He also recommends the West doesn’t try to understand what the Russians want. “Trying to understand the Russians, focusing, for instance, on Putin’s mental state, is a bad strategy. In doing so, the West is actually giving Putin a ticket to ride, telling him: ‘Do what you consider to be good; the West will try to understand you.’ It means always getting the short end of the stick.”

ホルツァーによれば、プーチンの行動は何といってもロシアの内政によって説明できます。国際政治はロシア国民に刷り込まれたことの反映にすぎないという。彼は又、『ロシア国民を理解しようと、例えばプーチン大統領の精神状態に目を向けるのはまずい戦略です。そうすることで西側は実質的にこう言ってプーチンに汽車の切符を与えているのです:あなたのいいと思うことをおやりなさい、西側はあなたを理解しようと試みますから、と。それでは貧乏くじを引いていることになります』

ホルツァーは、これからどのようにことが展開するかは難しくて予想できないと述べた。そして、『NATOがどう反応するかを見ましょう。例えばバルト諸国やポーランドに軍隊を派遣するかどうか』と付け加えた。


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ホルツァー博士のこの見解については、(その2)でメモする予定の、5月20日のiROZHLAS.cz に掲載されているインタビュー記事によってさらに詳しく知ることができます。

なお、ホルツァー博士のこの問題については、いくつかの詳しいインタビューがYouTubeで聴くことができます。その一つがhttps://www.youtube.com/watch?v=IfoVXKCRLowです。チェコ語ですので筆者は残念ながら理解できませんが、その説明を邦訳すると、次のようになります。チェコ語に通じた方の解説が聴きたいものです。

『ポッドキャスト「プーチンのロシア」は、1990年代から現在までのウクライナの発展を描いてみたポッドキャスト「独立したウクライナ」に続くものです。ロシアにも複雑で苦しい歴史があったことは間違いなく、その理解を深めるために、チェコ政治学会会長でもあるマサリク大学社会学部政治学科教授のヤン・ホルツァーをお呼びしました。ます非民主的な体制の定義と区別、そしてその世界的な変容と発展について扱いました。続いて、現在のロシアの特徴を説明し、プーチンがほぼ満たしている権威主義的支配の要素と比較しました。プーチンが近隣諸国に拡げたいと思うほどのロシア的なものとは何かというのが、この会話での大きな疑問でした。しかし、教授が指摘するように、クレムリンの壁の向こうは見えないのだから、彼の真の動機を理解しようとするのは難しい。しかし、彼は22年間の統治で、主に前の統治者ボリス・エリツィンの悪行を正し、ロシア人が望んでいると思われる偉大な(ソ連ではなくツァーリ)ロシアの復活の要求を満たそうとすることで、その力を強固なものにしてきました。プーチンは欧米をどう見ているのか、ロシアの世界観は我々と何が違うのか、隣国のベラルーシはどうなのか、こちらはいろいろな意味で不思議な政権ですが、ロシアと比較すると、実に多くのテーマがあります。どうぞお聴きください』