Angela Merkel:ドイツ前首相

投稿日 : 2022.06.16


今月6日、ベルリン・アンサンブル劇場での「我が国とは何か?」という催しで、ドイツの前首相のAngela Merkel氏が去年の退任後初めて公式のインタビューを行いました。この内容は各国でも早速紹介されました。なにしろ去年の12月まで16年間もドイツを率いてきた人物なので、その発言に大きな関心が注がれるのは自然のことです。

これに対するドイツの記事の見出しでは彼女に対する評価は概ね厳しく、プーチンとの係りについて甘すぎて結局ドイツや西ヨーロッパのエネルギー政策を誤った方向に誘導したこと、またロシアがクリミヤ半島を併合したのちの和平交渉で安易な妥協をしたこと、福島の原発事故の直後後に異常に盛りあがった感情的な世論に乗ってドイツの原発を拙速に廃止したことなどに対して、彼女が肯定的に評価したことに対する批判的なフレーズが躍っていました。それに対して、彼女はいかにもドイツ人らしく「Nein!」と、もちろん理由を挙げて論駁しています。ドイツ人の「Nein」は絶対否定に聞こえます。

いろいろな記事の中で、チェコテレビのボーダルサイトの記事が、筆者には印象に残りましたので抄訳を試みました。本文はチェコ語で書かれていますが、機械翻訳を基に内容を辿ってみます。

6月7日の記事:
『メルケル首相は「残忍で許しがたい」戦争に悲しみを覚えている。しかし、彼女は(自分のやってきたことを)後悔していない』

メルケルは、「冷戦は決して完全には終わっていない。2007年にプーチンは私にソビエトの崩壊は20世紀の最悪の出来事だと言った。でも私は正反対に受け取っていて、これは私には自由への開放だった」と述べた。また、彼女はプーチンのこの見解は受け入れられない。またヨーロッパは十分な安全保障の仕組みを構築することに失敗した。「でも、言いたいことはただ一つ、ウクライナへのロシアの侵攻を正当化する理由はない」と。

また、2008年のブカレストでのサミットで、NATOへの参加に向けて、ウクライナとグルジア(ジョージア)を考慮することについて賛成しなかったことを擁護して、「当時のウクライナはいまとは違って、親ロ派のYanukovychと親欧米派のYushchenkoに分裂していて、「プーチンはそれを容認しないのは明らかだった」と述べています。また、2014年にロシアがクリミア半島を併合した際、「この事態に誰も踏み込まずプーチンを止めなかったらどうなっていたと思いますか?」と。そして、プーチンにとってウクライナは西側にダメージを与えるための仕掛け、つまり人質だと述べています。

彼女は「プーチンはEUを破壊したいのだ」として、ウクライナの自由と自決を求める困難な時期を、1953年の東ドイツ、1956年のポーランドや、ハンガリー、また1968年のチェコスロバキアがワルシャワ条約機構の侵攻で民主化が拒まれた出来事を重ねています。

彼女としては「ロシアの体制転換を実現するためのドイツの長年の戦略として、経済と貿易によってロシアに影響を及ぼそうと目指し、"ロシアはヨーロッパの隣国だから "という理由で、隣国を信じた。そして、政治的にできないのであれば、例えば貿易で何とかすることもできるだろう」と。

多くの記事では、ここが甘かったと批判されています。

しかし、去年の10月のローマでのG20で、ロシアがウクライナとの国境に軍隊を駐留していることで、この事態を深刻に受け止めねければならなくなったのだと述べて、プーチンに通じるのは軍事的な抑止力だけなので、現政権の防衛力強化の政策を支持したとあります。

ただ、彼女は「自分は一般市民ではなく、元首相なので、発言や評価には慎重にならざるを得ない」と述べていて、何時までも口出しを続ける人物でないことは、彼女の人柄を表していると筆者は好ましく思いました。

そして、彼女は「ロシアの文化やロシアそのものを非難しないよう警告し、自分自身はロシアに魅了されているが、それはロシアの政治には当てはまらない。"あの国を愛しているからこそ、より悲劇的だ」と締めくくっています。

ロシアそのものとは、ロシアの政治体制ではなく、文化という意味で、心あるロシアの国民を指しているのは明らかでしょう。

彼女は旧東ドイツのライプツィヒで高等教育を受けた物理学者で、夫もベルリンのフンボルト大学の量子化学の教授です。彼らは学生時代、ランダウ・リフシッツの「理論物理学教程」やスミルノフの『高等数学教程」という筆者たちもお世話になった優れた教科書で勉強したはずで、自然科学の研究での数多くのロシアの科学者の業績や、音楽や演劇、文学などを通じてそのような思いがあるのは物理学者としては自然です。「坊主憎けりゃ袈裟まで・・」ではいけないのではという気持ちは理解できます。

また、原発を廃止しようと決めたことも、当時のドイツやヨーロッパのかなり感情的で異常な世間の空気は、当時ベルリンにいた人からのメールなどで筆者にも伝わっていました。したがって彼女がその雰囲気に拙速に乗ったという批判とは別に、彼らが物理学を修めた学者なので当然すぐに頭に浮かぶ、放射線の危険、また、一旦事故が起きると必然的に生じる膨大な財政的な負担の予想から、どうしても国民を守りたいという正直な科学者としての理性的な考えによって自然に起きた行動だと筆者には思われます。ただ、それを埋めるエネルギー源の多くがロシアにあったのです。多分相手がそれを武器として戦略的に用意していたとは思いたくなかったということでしょう。

今回は天然ガスや石油ですが、なんでも武器にはなります。食料、肥料、高性能の半導体、素材、水、そして情報。それらをすべて自国で賄おうとしても無理な時代。そこに新しい国際秩序を生むアイデアが隠されているように筆者には思えます。

さて、別のドイツの記事で、彼女が退陣したのち、いろいろな本を読んだという中に、シェクスピアの『マクベス』などというくだりがありました。

特に『マクベス』とはどういう訳でしょう、そのどこが彼女の頭に浮かんだのだろうと思いました。ひょっとして、次のフレーズではなかったかと勝手に想像しました。

第一幕 第七場

Macbeth

"If it were done when 'tis done, then 'twere well
It were done quickly: if the assassination
Could trammel up the consequence, and catch
With his surcease success; that but this blow
Might be the be-all and the end-all here,..........."


Lady Macbeth

".......Wouldst thou have that
Which thou esteem'st the ornament of life,
And live a coward in thine own esteem,
Letting 'I dare not' wait upon 'I would,'
Like the poor cat i' the adage?

この最後の2行、「やると言いながら、やらないなんて、諺にあるアホな猫みたいね」、つまり、この猫は美味しい魚が目の前に泳いでいるのに、手が水に濡れるのが嫌だとやらないバカという意味だそうです。

この意味を彼女とは別に勝手に拡張解釈をすると、「今やればすぐできることが無数にあるにもかかわらず、何かに気兼ねしたり、忖度してやれないのは・・・みたいだね」となります。

一方、彼女に対してこのような記事もあります。
Merkelová svými výroky v roce 2020 zasáhla do práv AfD, rozhodl soud
15. června 2022 13:00

Někdejší německá kancléřka Angela Merkelová komentářem k volbě durynského premiéra v únoru 2020 zasáhla do práv protiimigrační Alternativy pro Německo (AfD). Rozhodl o tom německý ústavní soud, na který se AfD obrátila.

機械翻訳しますと、次のようになりそうです。

メルケル首相の2020年発言はAfDの権利を侵害、裁判所が判断
2022年6月15日 13:00

ドイツのアンゲラ・メルケル前首相は、2020年2月のチューリンゲン州首相選出に関する発言で、移民排斥派の「ドイツのための選択肢」(AfD)の権利を侵害したと、AfDが上訴していたドイツ憲法裁判所は判決を下した』

この事情は、次のサイトにあります。

ここで、AfDは極右的政党だそうで、ギリシャ危機の際に、EUの中核であるドイツが、ギリシャの財政を主に支えることになることに対するドイツ人の不満の受けざらになったのでしょう。

今後どのようにこの状況は推移するのでしょうか。