Hélène Grimaud
投稿日 : 2022.08.27
Deutsche Grammophon のプロモーション用YouTubeに、
"Bach: Partita for Violin Solo No. 2 in D Minor, BWV 1004 (Chaconne arr. Busoni)"
がある。
この動画は筆者がHélène Grimaudの演奏を知った最初の頃のもので、とても新鮮で、以来彼女の演奏はYouTubeで楽しむことが多い。
特にこの動画のイントロには、ベルリンの夕方の風景が流れる。アレクサンダー広場のテレビ塔と右側にはあたりにそぐわない高層ビルが望める。このビルはベルリンがまだ東ベルリンだったころは大きめのホテルで、筆者は小さな物理学のワークショップで研究発表をした時に、そこに宿泊したことがある。1988年8月22~25のことである。
ホテルのフロントの客への対応はとても無粋で、何時どんなことがわが身に起きてもどうしようもないというような、とても気が休まる宿とは思えなかった。速く動くエレベーターもレールとの隙間があるらしく、ガタガタと左右に激しく振動して、途中で動かなくなるとどうしようと思うような代物だった。
今とは違って当時はスマホがないので、家族へ電話しようとしても、いろいろ当局の許可がいるのかえらく長く待たされた挙句、交換嬢が日本のどこかのお宅につないで、筆者は深夜に何度も住人を呼び出すことになる始末。「いい加減にしろ」と怒鳴られた。申し訳ないことだった。
ベルリンの壁は翌年に崩壊したが、このホテルに滞在中にポーランドの旅客機がハイジャックされて西ベルリンの空港へ着陸する騒ぎが起きた。筆者が不思議に思ったことに、部屋のテレビに普通に映る西ベルリンのテレビニュースでそれを知った。目と鼻の先で隔たれる理不尽。何とも奇妙でバカバカしい世界である。そして、その内ここで何かがきっと起こりそうな予感があった。
そんな色々複雑な事情も思いだす動画の風景である。
さて、最近はなんとも憂鬱になる世情である。日本の若い世代の将来や、基礎科学の将来を考えると暗澹たる気分になる。そんな時、音楽を聴く。彼女の演奏の次の動画を繰り返し聴くと、なんとなく平衡感覚が保てそうになる。
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