手薄になったロシアの国境

投稿日 : 2023.05.28


Alex Švamberk氏の記事は、しばらくはチェコ内政に向いていた印象があるが、今回ロシア国内の内紛を思わせる事件についてコメントしたので、内容を翻訳してみた。ロシアのウクライナ侵攻から1年以上も経って、まだその行く末は見通せない状況が続いている。ウクライナ東部での激戦が続いているが、本当の戦況は私たちにはよくわからない。氏の見解は戦況を推測する上で参考になる。

KOMENTÁŘ: Rusové v nedbalkách - Alex Švamberk

ウラジーミル・プーチンに反対しウクライナ側に立っているロシア義勇軍と自由ロシア軍団による、ロシアのベルゴロド地方への武力侵攻は、ロシア領内が無礼講の場になっていることを露わにした。

彼らは簡単にロシアの国境を越え、コジンカ村を含む小さな地域を占拠した。ロシアは彼らを追い返すのに2日近くかかった。このため、ロシアはこの地域に反テロ作戦を宣言し、陸軍と内務省の軍隊が投入されることになった。この行動によって現在のウ露戦争の戦況が変わることはないが、ロシアの防衛力の弱さを見せつけた。

本文:彼らはロシアが特殊軍事作戦の一環として攻め込んだウクライナ領内からロシアへ突入したのだ。つまり両国の国境が無防備になったことで、驚くべきことである。

ウクライナは攻め込めないと思っていたこの地域のロシアの将軍たちが暴走したことも、国境警備を緩めてまでもドンパスでの激戦のために兵員を回した結果も、プーチンにとっては不愉快な話である。

そのロシア人たちは現行犯として逮捕された。戦闘相手国との国境は漏れがあってはいけないものだ。とはいえ、ドローンの侵入や特殊部隊の侵入は不可能ではない。しかし、今回のベルゴロ地区への侵入は、小規模な陽動部隊ではなくハンビー(HMMWV: High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)や耐地雷車両を数台を伴った数十人のグループによるものだった。

この攻撃によって、ロシア本国では、自国の軍隊は政府の言うほどは強くないのではという憶測が拡がっている。遠方にあるロシアの飛行場への旧ソ連軍のTu-141無人機の攻撃では、ロシア軍は無人機が数百キロ飛行している間に撃ち落とすことに失敗したが、それはその状況をすでに示唆している。

これらはロシア軍を非難する側の好材料になっている。例えば、ワグナーグループの首領、エフゲニー・プリゴジンはすでに、プーチンがベルゴド州の住人がどうなろうと気に留めていないと明言している。

破壊工作員や偵察部隊が密かにロシアに入って動きまわり、ビデオを撮ったり、戦車や兵員移動車を走らせている。彼らがモスクワまで行かないという保証はあるのだろうか、と問いかけ、ロシアのエリートたちの息子を前線に出すように促した。そうでないと、1917年のような革命になりかねないと警告した。

今回の事件が、誰かが彼らをなんとか武装させたかったのだとしても、この事件の衝撃の意味は変わらない。義勇軍などが武装したくても戦車を自動車販売店で購入するわけにはいかない。今回の行動ではアメリカ製の車両が使われたので、アメリカは懸念しているかも知れない。

モスクワはすでにアメリカが紛争に関与していることを認めたと受け止め怒りを露わにしているが、それで国境警備の弱さをごまかすことは出来ないだろう。

クレムリン指導部が今回の犯人を明らかにせず、責任者を排除しなければ、弱腰との非難にさらされるのは必至である。プーチン包囲網は狭まりつつあり、ロシア大統領が批判にさらされるのは時間の問題である。

それどころか、この事件は2016年からキエフに住み、力によるプーチン追放を目指すロシア移民、イリヤ・ポノマリョフの立場を強化する出来事となった。荒唐無稽の愚か者の夢のように思えたが、ロシアは思ったほど強固で強力ではないことが判明した。ダリヤ・ドゥーギンの暗殺(*2022年8月20日にモスクワ郊外で爆殺された)とはまた違ったタイプのアクションである。