Marta Czech

投稿日 : 2023.05.30


ベートーヴェンのピアノソナタ31番 Op110は筆者の好きな曲で、YouTubにあがっているHélène Grimaud の演奏を楽しんでいます。

YouTubeのありがたいことは、時代を超えていろいろな演奏家の演奏を比べて楽しめることです。最近Marta Czechという1998年生まれのポーランドの女性ピアニストの演奏を見つけました。これは、Personal Piano Projectというサイトで見つけたのですが、驚いたことに、ここでは彼女の演奏するベートーヴェンのピアノソナタ全曲が連続して鑑賞できます。

彼女の説明は次のように訳せます。『2年ほど前から、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの32曲のピアノソナタと5曲のピアノ協奏曲に取り組んでいます。目標は全曲を聴衆の前で演奏することでしたが、残念ながらパンデミックによって不可能になってしまいました。しかし、ファツィオリ(FAZIOLI)の素晴らしいピアノで録音することができ、大変感謝しています。パンデミックが終息したら、すぐにでも全曲を公開演奏したいと思っています』

この収録は2020年8月と11月に行われたとあります。ですから彼女がこのプロジェクトに取り組んだのは2018年になりますから、ちょうど20歳で思い立ったということになります。

全曲の演奏では、古くはバックハウスなど名の知れたピアニストのものがありますが、このように若いピアニストの演奏は新鮮で興味深く、おもわず全曲を聴いてしまいました。32曲となると有名な曲だけでなく、演奏会などであまり演奏されないがベートーヴェンのいろいろ新しい試みが満載された曲も連続して聴けるのはなかなか興味深いものでした。

鍵盤をなめるように動く指や強弱の妙味はなかなかのものでした。収録はすべてスタジオでの演奏で、淡々とひたすら演奏に打ち込んでいる姿と澄み切った音に、新しい世界を鑑賞出来ました。

収録はすべてチェコ国境に近い彼女の生まれ故郷のWodzisław Śląski(赤い印)にほど近いBielsko-Białaで行われています。現地の地理がわからないので調べたものが次の地図です。f03a07f0360bf8875896e1331ec0cf52af89abe4.jpg

去年からはいろいろな作曲家の曲の演奏がYoutubeで聴けますが、リサイタルのものはなく、すべてBielsko-Białaでの収録のようです。

パンデミックが一応下火になっようで、徐々に活動を拡げているのでしょう。やがてピアノ協奏曲の演奏が聴けないかと期待しています。いつか彼女の演奏が日本でも聴けないかと楽しみです。

ところで、Personal Piano Projectは、若いピアニストが新しい挑戦をする発表の場も提供するピアノ業界のボーダルサイトのようです。YouTubeやインスタグラムというメディアを足掛かりとして、自分の演奏活動の範囲を拡げる手法に徹しているところに、彼女の強い意志を感じました。

なお、出生地Wodzisław Śląskiの名前は古いポーランド語の名前「Wodzisław」に由来する守護霊の名(ローマの殉教者、聖ローレンスのこと)だそうで、「支配者」を意味するスラブ語の男性の名前のWładysławからきているそうです。

因みに筆者は20世紀初頭にクラクフで活躍した理論物理学者、Władysław Natansonについて調べたことがありますが、その名前の由来も幸い知ることになりました。