3.赤血球計算より発展して行った研究
投稿日 : 2009.09.03
3%NaClを希釈液として赤血球計算(cell counting or erythrocyte counting)を実際にベッドサイトで応用した場合予期しない事が起こった。前記の実験に使用した血液は正常人患者、及び供血者(donor)の血液であり、いずれも二重蓚酸塩(oxylate salt)で抗凝固処置(anticoaglant)を行い冷蔵1~2日を経たものであった。患者の血液をそのまま直に希釈した場合、上記の比色計算法は意外に誤差が大きくなる。かつその値は時と共に変化するので使用できない。漸く安定してくるのは希釈後約30分である。正常人の生血(fresh blood)が球形化するのにはかなり時間がかかる事は光電比色計で確認された。具体的には図5「3%NaCl」におけるTの経時変化をみてもよいし、図4の如き変化をみてもよい。形態的変化(morphological change)は顕微鏡対物部(objective lens)を希釈液に浸してえたものである。
ところが重症患者の場合は、健康人と異なり速やかに球形化する例が多い事が確認された。保存血(banked blood)も同様に速やかに球形化する。ここにおいて新鮮な正常人血液は何らかの抗球形化物質(antisphering factor)をもっている事が推定された。その後の文献の輸入によってPonderやFurchgottが多方面よりantisphering factorの存在を論じている事を知った5)。
以上の現象は著者にとって深い意味があるように思われた。その後ビキニ環礁において初の水爆実験が行われ、いわゆる福龍丸事件として日本では大いに騒がれた。血液研究は主として白血球に関して行われた。著者は当時一般入院患者の重傷者について「赤血球が前述の方法で球形化する速度」を光電比色計で測定していた。このような重症患者や放射線治療を大量に受けつつある患者は、その赤血球が高張食塩水中で速やかに球形化する。現在は赤血球の球形化はA.T.P.と関与するとされている6)。