4.いわゆるantisphering factor より

投稿日 : 2009.09.03


およそ異種の液相が相接する界面は吸着性に富んでいることは周知の事実である。一方が微粒子である場合、特に吸着性が著明になる事は吸着力が粒子直径の逆自乗になって働くからであろう。ベンゼン(Benzene)にとかしたローダミンB(Rhodamin B)がそれ自体は発色しないが、水をベンゼンとまぜながら強く振盪すると水の小泡が出来て発色してくる。水に接したベンゼン小粒子の界面に、ベンゼンにとけたローダミンB粒子が集まりならぶために赤色を呈するのである。

赤血球界面において上述の界面化学(surface-chemistry)の現象が起こる事は予想できる。赤血球が単なるOの運搬体に止まらず、多くの物質を吸着しまた放出しながら体の各部を循環している事は、前記のantisphering factorの存在からも類推できる。赤血球の表面積を考えてみると生体中比肩すべきものはなかろう。

1mm中の赤血球が4.5x10~5x10と仮定し人体の血液を10Lとすれば赤血球の総評面積は5x10前後となる。赤血球が建築学上から言って最も表面積が広い割合には堅牢である形態をとっている事は甚だ面白い。

血液中には多くの蛋白微小体が漂っている事は周知の事実である。我々の血清(serum)は食事前後このような微小体が急増する事を示している。蛋白体である以上多価電荷体(multiple electric-charging substance)であろうし、この故に赤血球に吸着される可能性は強い。また、界面化学からみても固液両相の界面にはこの様な微粒子は集中的に集る筈である。前章でのべた様に各疾患や生体の色々の変化によって赤血球界面の状況は異なってくると推定されるので、かなりdynamicに生体は活動していると考えられる。

従来医学のデーターはこの様な吸着現象はあまり考えていない様である。赤血球を遠沈し或は血液凝固後のいわゆる「上ずみ」をもって医学の重要なデーターの一つとみなしている。血清と言い血漿(blood plasma)と言うも以上の難点から再検討の余地があると思う。我々は赤血球に吸着された重要物質をすてさり、血清値をもって唯一の医学判定基準としてはいないだろうか。

例えば非定型性肺炎の血清学的診断に時として説明しがたい現象が起こったり、INAH(isoniazid)の血中濃度測定に際して各種の形が生まれるのは、この様な赤血球と言う微小体の吸着性変化と関係あるのではなかろうか。(筆者注:INAHは結核治療薬)