5.INAH 血中濃度について
投稿日 : 2009.09.03
前述の疑問を立証するために次の実験を行った。遠心器(centrifugal-generator)に挿入する小試験管の中に超音波発生装置(supersonic-wave generator)を設けた。この場合「赤血球の溶血を起こさない程度の高周波(high frequency)」は小さな水晶板で得られるので好都合である。遠心器を回転せしめつつ赤血球膜を振盪して、赤血球に吸着されていると思われる微小体を血漿の中に見出そうと言う考えである。赤血球は急速に沈下するので成功の可能性はある。この上澄みの血漿を超音波を用いない通常の方法による血漿と比較してみる。もう一つの方法は温度差のある高速遠沈器を使用してー例えば37℃と0℃の場合ー両者の血清を比較してみる。1959年より1965年までこの実験は断片的に試みられたが、各種の化学検査項目において著明な差を見出しえなかった。
1965年8月 10ccのリンゲル液中のINAH濃度を9γになる様にしーこれはINAH 0.2g服用後約2時間の血中濃度と考えられたー1ccの赤血球粥(erythrocytes porridge) をその中に投入した。この赤血球粥はリンゲルで3回洗浄してある。上記の9γ濃度は忽ち7γ前後に下った。赤血球はともかくもIHAHを吸着するらしい。前述の超音波や温度差による試みはかなりhigh energy methodと言えるが、これはshadow method あるいはlow energy method と言えるだろう。赤血球とINAHの接触を増すために振盪器中に被検液を入れた試験管を設置した。振盪器(shake-apparatus)は一秒間に数回約5cmの距離を往復するもので被検液にはさほど大きなエネルギーは与えない。結果は図6の如く忽ち上昇である。これは大変興味深い事である。
生物がO2摂取における如きchemical bondと共にphysical bondを持っていることも考えられる。超音波の如き高エネルギーでは分離しえなかった物質が、かくも簡単な方法で吸着されまた分離される点は注目すべきであろう。ゆっくりした振盪器のエネルギーでは赤血球に吸着されたー恐らく電気的結合も含めてー小物質を分離しえない筈である。振盪によって何が起ったか。恐らくO2がまず赤血球に摂取される事が第一に考えられる。然らば赤血球膜がO2摂取と同時に交換的に何かを放出し或いは分離したのであろう。この論拠は膜の作用機構から充分考えられる事である7)。以上の推定は後述の放射線の実験に何らかの示唆を与えるものである。赤血球は核を持たない細胞なので吸着その他物理化学現象の研究に便利である。この具体例については後述する。