6.界面現象を変化させる方法

投稿日 : 2009.09.03


試験管内(in vitro)はともかく、生体内(in vivo)で、その細胞膜周辺の界面現象を局所的にしかも永続して変化させる事は困難である。細胞膜界面が単純ではない事は次の一例でも想像出来る。PAS(para-amino-salicylic-acid)はin vitroでは結核菌(tubercle bacillus)に対して大変有効であるが、in vivoでは大量を要する。これと反対の現象を呈する薬物もある。原因は不明であるが、前述の血清中の微小体やその細胞膜への吸着現象が関与していると思われる。図7は著者の仮説である。

3極真空管の場合、電子が陽極(anode)に向かって流れるのは丁度PASが結核菌に近づくと考えてよい。前者のコントロールはグリッドが行う事は勿論であるが、両極の電圧を高めれば電流量も当然変化する。この様に生体内の微粒子ー赤血球周辺を始め各細胞膜付近に集まっている多価荷電体の微粒子ーが細胞を幾重にも取囲んでおりそのために、薬剤の有効な遊離基(free radical)がその作用を現象するのではあるまいか。この場合浮遊する微粒子はグリッドと考えてよい。グリッドである微粒子をコントロールすることは困難であるが、荷電状況を高める事は可能である。荷電によって結核菌とPASはその結合性を高める可能性が生じる。両者は荷電物質であり共に電気泳動(electro-phoresis)が起る8)

細胞膜の本質の一つは膜内外における荷電状態である事も知られている。前述の荷電下における細胞の変化特に細胞に対する薬剤殺菌力の増強についての報告も既にある9)

このような考えから生体に長期間荷電を行ってみる事にした。電気を使用することは臨床的にも簡単でありかつ局所に応用できる。生体荷電 ー結果的には通電と言えるー を電気化学の立場で眺めた研究はあまり見当らない。動物の心筋細胞膜の厚さは約100Åと考えられ、それには約0.1Vの電圧がかかっているが、これを1cmの厚さに換算すれば10Voltとなる。これ故に生体の長期荷電は興味ある課題である。薬物がelectro-phoresisを起こすと考えると薬物効果に変化を起こす可能性もある。これは局所の薬剤濃度を高めたと同意義とも言えよう。但しこの荷電は長時間行う必要がある。

後述の如く生体は擬結晶或いは液晶(semi-crystal or solution crystal:筆者注,quasi-crystal or liquid crystal)とも言える緻密な構造であるために、泳動物質の移動にかなりの時間を要するからである。