12.放射線への応用
投稿日 : 2009.09.03
放射線の生物に及ぼす影響の本質論は殆んど不明と言ってよい。前述の晶質や膜の問題がここでも再び登場してくる。しかしながら、分子単位から生物単位への移行にはあまりにも断層がありすぎ結局生命現象の本質解明が充分でないから放射線生物学が充分解明出来ないともいえる。前述の赤血球の「吸着能力や泳動速度」と「放射線効果」との関係を求めるのも面白いであろう。一つの生物学的な測定方法となる可能性がある。放射線障害患者における赤血球の変化については既に第3章でのべた。この場合薬剤の吸着能力の変化をみるのも興味がありこれらは機能と言う面からみた生物の一つの立体像をつくるであろう。
著者は約2年前より二十日ねずみ(mouse)の手と尾に金属電極をおいて荷電ー結果的には通電ーを行いつつ同時に放射線照射を慶大H.Y.教授の援助の下に試みている16)。放射線のみの照射に比して直流(0.2mA前後)の場合、体重の減り及び脾臓の変化をみた。同時照射を行わずタイミングをずらすと効果は減少する。また交流では変化が殆んどない事は注目すべきである。生物が液体電池の集積とも考えられる事は緒論にものべたが交流は元来生物とは無縁のものであろう。
第7章でのべた如く人体の深部を荷電状態におく事は比較的容易である。直達的には電極をのましてもよいのである。もしこの実験が生体にも適応出来るとすれば臨床面に大いに有効かつ便利であろう。医師の望む所に放射線効果の増強を期待できよう。かつまた生物の本質を探るのに放射線と荷電(通電)の二つのparameterを発見した事にもなる。荷電は薬物の集散を行いうるのでこの点またparameterが一つくわえられた事にもなる。前記のタイミングの問題も一つの変数として登場する。将来放射線、荷電、薬物等のXYZ軸で生物の立体像をうる事も可能であろう。また交流が無効な事より放射線効果とは分子単位的変化ではなく膜単位程度の巨大物質の機能が関与しているらしい事が判る。これは第5章の小実験が参考になるであろう。
前述の研究で強力通電の場合は放射線効果の増強が現れないので、この事も放射線効果は生物においては分子単位ではなさそうだと言う間接の証明にもなるであろう。