はじめに

投稿日 : 2021.06.25


筆者は2018年に思いがけないことから、ポーランド科学アカデミーの科学史の専門誌(年に一回電子出版されます)に論文を発表しました。

タイトルを訳すと、『1911年のナタンソンの論文が引用されなかった事情の社会的心理的側面』 というもので、PDFファイルが自由にダウンロードできます。

”On social and psychological aspects of a negligible reception of Natanson’s article of 1911 in the early history of quantum statistics”, Studia Historiae Scientiarum 17.pp.391-419, 2018.

これは、歴史の専門家でもなんでもない筆者が、推理小説を読むノリで調べ始めたものです。もうかれこれ28年も前の話になりました。

しかし、筆者の原稿を徹底的に吟味して、学術論文として掲載を受理してくださった編集長のMichal Kokowski博士は、翌年、もっと広い観点からナタンソンの業績についての総説を発表されました。そこでは、筆者の論文の評価や間違いの指摘、補足、ポーランドの方でなければわからない事実の追加などがなされています。

タイトルを訳せば『ボース・アインシュタイン統計の多様な歴史とWładysław Natansonの忘れられた業績』となるでしょう。これもPDFファイルがダウンロードできます。

”The divergent histories of Bose-Einstein statistics and the forgotten achievements of Władysław Natanson (1864–1937)", Studia Historiae Scientiarum 18, pp. 327–464, 2019.

また、2020年には、固体物理が専門の理論物理学者で、以前、ナタンソンの業績についての科学史的考察を論文として発表された J.Spalek博士が、これらの論文を踏まえた新しい論文を発表されました。

タイトルは『ボース・アインシュタイン統計:デバイ、ナタンソン、エーレンフェストの寄与と、量子の識別不能原理の出現』と訳せます。この論文も同様にPDFファイルがダウンロードできます。

"The Bose-Einstein statistics:Remarks on Debye, Natanson,and Ehrenfest contributions and the emergence of indistinguishability principle for quantum particles", Studia Historiae Scientiarum 19,pp. 423–441,2020.

これらの論文は、大学の物理学の教科書で必ず登場する量子統計の基礎理論や、今日、巨視的量子効果とよばれる先端科学や技術の基礎的事項を、学んだり教えたりするときの息抜きのネタになるはずです。また、今後、ポーランド以外の歴史学者たちが、どのようにナタンソンを論評するかは興味深いことです。

ここでは、ナタンソンの論文が書かれた背景、筆者の調べ始めた動機、そして筆者の論文の概要を簡単に記します。また論文では必要以上のことは書けませんので、補足する資料なども紹介します。