1 はじめに
投稿日 : 2021.05.17
アブラムシは、野菜や果樹などの作物に大きな被害を及ぼす代表的な害虫です。我が家の卯の花(うつぎ)にも、毎年若葉が出始めると、同じ種類のアブラムシ(cotton aphids, Aphis gossypii)が発生します。以前は、見つけ次第すぐに殺虫剤を吹き付けていました。
虫たちにとっては、それが突然の災難です。人間の食料を確保し、生活の糧を得るために殺虫剤が開発されますが、その効果のテストでは、無数のアブラムシがひとまとめに「アブラムシ」として同じ目に遭っています。しかし、人間一人一人の姿や性格が異なるように、この小さな虫たちにもそれぞれ違いがあるはずだと思いますが、これまでじっくり観察したことはありませんでした。そこで、殺虫剤を吹きかける前に、一度しっかり個別の姿を観察しておくのも良いだろうと思いました。
植物にべったりとついているアブラムシたちの光景は、あまり気持ちの良いものではありません。しかし、その集団から一匹を取り出し、スライドグラスの上に置いて顕微鏡で眺めてみると、なかなか洒落た衣装を着た立派な姿が見えてきました。お尻の左右には「角状管」と呼ばれる管がかっこよくついており、少し太めのレーシングカーのようです。つまみ出して紙の上に置くと、驚くほど速いスピードで逃げ回ります。体長約2mmのアブラムシを、車体の長さが5mほどのレーシングカーに見立てると、アブラムシが秒速1cmで走ると、秒速25mの速さに相当します。これを時速に換算すると、約90km/hになります。
私たちは自分のサイズを基準にして物事を眺めがちですが、こうして縮尺を変えてみると、全く異なる姿が見え、印象も大きく変わります。物理学ではメトリック(尺度の基準)の取り方が重要ですが、生物の世界においても同じことが言えると思います。
このようにして、5年ほど前から卯の花の新芽が出てくる季節になると、アブラムシを顕微鏡で観察してきました。生物学の基礎知識がまったくなかった私にとっては、想像もしなかったような驚きがたくさんありました。以下はその記録です。
(*このアブラムシの観察記録は、5年前にブログに一度掲載したことがあります。今回は、今年の観察内容を加え、内容を全面的に書き直しました。)
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