10 尻切れとんぼのシナリオ

投稿日 : 2021.06.15


心拍がとまってから小一時間後に、美しい色合いで光るものがあり、その色も時間と共にゆっくりと変化していくアブラムシの姿に驚いて、「その理由を知りたい」と思って、ここまで観察してきました。ここでその理由を説明できるかもしれない一つのシナリオを考えました。

このシナリオのポイントは、アブラムシの身体の輪郭を保っている組織(私たちの場合の皮膚)だと考えたことです。

(*前述の鈴木先生から、この組織の名前は「外骨格」と呼ぶことを教わりました)

また、シナリオを描くもっとも大切だと思った出発点は、「生きているアブラムシに紫外線をあてても光らないこと」と、その時は「すこし動きがばたばたする性質がある」という事実です。

最初に触れたように、昆虫は2億年以上前にすでに地球上に住んでいたそうです。また大気の組成が今のようになったのはおよそ一億年ほど前からだそうです。そうすると、昆虫はいまよりずっと強い太陽の紫外線が降りそそぐ環境に適応するように進化してきたことになり、視物質も紫外線に適応していて、彼らは私たちとは全然違う世界を見ながら生きています。それなら、次のようなこともあるはずです。

私たちはあまり紫外線に当たると皮膚がんになったり、シミができると警戒され、予報が出るほどです。そして、日焼け止めクリームなどが開発されています。当然殺菌作用もありますから、アブラムシはもちろん、昆虫たちは紫外線から身を守る仕組みを身に着けて今日まで生き延びてきているはずです。

ですから、生きているアブラムシに紫外線を当てても平気ですが、ただ目にはスゴイLEDの光が差し込んで、大いに困ってバタバタするのに不思議はありません。

さて、アルコールに触れると命を奪われますが、同時に、紫外線から身を守る表皮を覆っている組織に変化がすぐ起きて、紫外線が体内へ射しこむはずです。そうなると、内部の組織の中の高分子が発光し始めることは自然でしょう。

蛍の様に生きているときに光るのではありませんから、そこでみえる発光現象は生命活動には一応関係のないものと想像できます。菌細胞や、血球、フェロモンなどの内分泌液、そして食物の消化されたものや糞など、さまざまの物質が光る可能性が浮かびます。また、外部に出てきた球形の組織や、まだ十分に紫外線保護の機構が完成されていない胚などが煌々と光るのもうなずけます。多くの生体物質中の発光の原因になる分子が、緑色から赤色の発光をするようです。

さて、さらに時間が経てば外骨格のたんぱく質などが変性し、再び紫外線を含めた短い波長の光が透過しなくなり、内部発光は黄色から赤の色だけが外に出てくるので、発光の色が変化したように見え、やがては長い波長の領域の光も体外からは見えなくなり、外部からの強い紫外線もブロックされるようになって内部へ射しこまなくなり、何も光らなくなると考えられます。

吸収スペクトルの性質から、胚から成虫へ成長する過程で、外骨格は内部から柔軟で力学的強度を備え、紫外線をブロックする多層膜が順に形成されるのではないかと想像しました。(*鈴木先生からごく最近教わった文献から、この組織の断面が層状で、その化学組成や機能などを知りました。また、外骨格を資源とする多くの研究が進んでいることも知りました。趣味で始めた観察ですが、今までさっぱり知らなかった世界を見るいい機会になりました)

このように考えると、今後の興味としては、

1)光る物質を特定し、それがどの様な生命活動を解明するマーカーとなりうるか? 

2)表皮の変化を通じて、生物から非生物への移行現象の本質にメスを入れられるか?

などが考えられるように思います。

しかし、2)についてはとても重くて取扱いの難しい問題に直面するでしょうから、研究者個人やそのコミュニティーの興味やその環境に任せて、やみくもに研究を進めることには危険が多いというのは、歴史の教えることでしょう。

こんなところで季節が移り、うの花からアブラムシは一匹もいなくなりました。

とにかく、アブラムシ 凄し。

ここでは触れませんでしたが、特異な生態とともに、人間より相当先を行っている生き物なのがわかりました。人間はミトコンドリア段階で共生の利点を忘れてしまったのでしょうか?

今ワクチンがどうの、新しい株がどうのと大変です。でも、コロナウイルスなどを好んで食べてくれる何かをもっと早くから受け入れていたら良かったのにと思いますし、ひょっとして水虫君が助けてくれていたりしないかなんて思います。新しいワクチンの開発も、今では遺伝子工学によってできるようになってはいます。いい商売ではありますが、・・・いたちごっこだからいいのかも知れませんね。

謝辞:素人相手に親切にご指導いただいた鈴木先生に感謝いたします。