1 はじめに
投稿日 : 2021.12.18
励起子は固体、特に絶縁物や半導体の結晶に光を照射したときに生まれる疑似粒子です。この量子は電気的には中性で、伝導電子や正孔に比べれば、不純物などの影響が少なく動きまわれる性質を持っていて、ちょうど真空中で自由に運動する原子に似た性質を持ちます。
しかし、物質によっては結晶を構成する原子や分子の熱振動の影響を強く受けたり、周りの原子の位置をひずませて自分で動けなくなるような性質もあります。
また、最近は工業的な応用を念頭に置いた、人工結晶、俗にナノクリスタルというような非常に小さな空間での励起子というよりは、電子と正孔のクーロン相互作用を考慮した効果の研究も多く行われています。
一方、相当以前から植物の光合成の効率の驚くべ効率の良さを説明するために、励起子が考察されて来ました。
ここではなるべく簡単な構造の結晶で、励起子の原子的なモデルがふさわしい物質についての励起子の話題を、筆者の経験を中心に紹介します。
話を始めるにあたって、お断りをしておきます。研究は一人でできるものではなく、ここで紹介する話題はすべて時々に縁のあった同僚や大学院生の皆さんと共同で行った作業で得られたものの中から筆者が特に興味を持ったものを選んでいます。したがって、すべて筆者個人の印象ですので、仲間たちがそれぞれにもった興味とは違う部分も多いと思いますが、ご勘弁を。
この拙文が、彼らと一緒に研究できたことに対する筆者の感謝のしるしになればと願っています。
これまで誰も扱ったことのない研究テーマでは、やること、なすことすべて新しい発見なので、説明も簡単です。しかし、そのようなテーマに巡り合える機会はそうあるものではありません。
たいていは、筆者もそうでしたが、先人たちの残した研究成果の上に、何かすこしでも新しい展開が見つかった時に論文として発表されるもので、それが次の誰かの研究の動機になるものです。ですから、説明もどうしても専門的に狭くなるので、読者の皆さんの興味からは外れるかもしれません。
しかし、実際の研究の現場では、巨大な魚を釣り上げることばかりを狙っては仕事になりませんから、それなりの形の獲物も無駄にはできません。そんな感じも味わっていただければ幸いです。
後の話で感じられると思いますが、筆者は自分の研究としては、流行りのテーマを極力避けてきました。ただ、学校では仕事として、学生さんの将来のことも考えると、多少流行りのテーマを紹介する必要もあったりしますし、できるだけ名のある専門誌に投稿できるように配慮もしました。でも、本当のところは、自分の知りたいなと思うことだけに興味を持って、成果の発表場所の知名度などはどうでもいいと思っていました。実は「いい成果なら、どこで発表しても何時か、誰かが、どこかで興味を持ってくれるはずだ」なんて・・。ですから、「あの人は研究というより趣味で・・・」といわれたりしましたが、それを聞いて「よしよし」と喜んでいた次第です。
また、人工的にデザインした試料も避けてきました。その理由はその試料を自分で作るには設備の都合で不可能だったり、なによりもある目的を実現するために人工的にデザインされるために、その結果の意外性の範囲が狭められる感じがして興味が持てなかったのです。
面白い話があります。湯川秀樹は日本で初めてノーベル物理学賞を授与されましたが、この影響は研究者の卵たちにも大きな影響を与えました。特に京都大学では、「湯川先生のような発見をするまでは論文など書けない」、ということを信じる風潮があった時代があるそうです。その結果、論文を書かずに長年留年?する学生や、いい仕事をしても論文を書かない若手の研究者がでて、これを「湯川効果」と呼んで困ったという話を聴いたことがあります。
筆者はそのような余裕?もなく、その日暮らしで生きてきましたのでこの病気?に取りつかれることはありませんでした。しかし、それでもそんな学生さんや若者がまれに大発見をすることもあるので、さて、どちらがいいか? 筆者は、彼らを頭から否定することはできません。むしろ、最近はこのような人々を認める社会のゆとりが薄れてきているようで、その方がかなり心配です。
コメント