3 余談:ピサの斜塔
投稿日 : 2021.06.21
ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔の上から「軽い物体と重い物体を同時に落として、地上に同時に着くことを実証した実験をした」という伝説は有名です。実際斜塔の入り口には、彼がこの塔で力学の実験をした、と大理石の壁に刻まれています。
高等学校の理科で、物理を習われた方はニュートンによる力学の第二法則をご記憶かと思います。f(力)=m(質量)× α(加速度)という公式として教科書に出てきます。
地上で質量mの物体が落下するときに、物体が受ける力が重力だけの時は、その物体の運動は次の方程式で表されます。ここでyは地上を0としてまっすぐ上向きに測った距離で、ÿは加速度を表す微分表示で書いたものです。
実は、この式はおそらく力学の方程式の中で、現在の私たちに深刻にかかわるものだといえます。
その理由は、この方程式の左辺と右辺に共通にmがあり、それを数式から除くことができる事情のためです。つまり、物体は質量の大小にかかわらず同じ運動をするということです。これがガリレオが実験で示したことです。
この結果、地上から測ったある高さからy0から物体を落とすと、次の式に従って、物体の高さyは時間と共に変わります。この数式は、「カーブする光」で示した数式で、aを重力加速度g、zを時間tに置き換えたものと同じです。
落下といえば、3.11の大地震と津波で、福島第一原子力発電所で大事故が起きました。
その時5号機の原子炉建屋で大きな爆発があって、上空にたくさんの重そうな物が打ち上げられ落下する様子がテレビで放映されました。その様子の映像はYouTubeに残されています。
吹き上げられた物体が、120mあるという排気塔より高いところから落下しているのが見えます。
その動きをテレビ画像から記録して、上の方程式を使って計算すると、建屋の何階から打ち上げられたかとか、物体が上空で爆発して分裂する様子、爆発のエネルギーの概算や爆発の種類の概要などが、高校生の面白い演習問題としてかなり推測できるはずです。しかし、このような解析がどこかでなされたという話は聞いたことがありません。
次は絶対に起きてほしくない事故について考えてみます。
現在は各地に空港が造られ、周辺の上空を頻繁に航空機が行き来しています。巨大な旅客機、軍事基地の周辺では軍用機、また山間部や農村部でもヘリコプター、軽飛行機、ドローンなどいろいろ飛んでいます。
今後宅急便などがドローンで運ばれるようになれば、もっと頻繁に私たちの頭上にこれらが飛行するはずです。
これらはたくさんの部品でできています。大きいものからネジ一本まであります。整備作業は大変ですが、どんなに注意していてもどこかに不備が発生して、機体から外れて落下する危険があります。重要なことは落下する物体の質量に関係なく同じように落ちてくるということです。
空気の抵抗や浮力など、また風の影響などもあって、現実には簡単化した話は出来ませんが、ネジ一本の脱落でも、エンジンの脱落、機体そのものの墜落という大事故でも、基本的には同じように落ちてくるということは、いつも知っていていいことではないでしょうか。落下物に直撃されればただでは済まないのはすぐに想像ができます。
例えば東京都心で南風の時に羽田空港へ着陸するルートを飛ぶ旅客機を例に考えてみます。
高度y0=1000mを、飛行速度vx0=0.1km/sec で飛ぶ機体から何かが落下したとすると、落ち始めた位置から前方およそ1.4km 離れたところが地上の落下点となります。また地上に落下するときの角度も計算でき、大体30度から40度ぐらいとなるはずです。相当空港から離れている場所で落下し始めても、近くでも結果はそう変わりません。
また飛行機が滑走路へ向かって旋回して降下する地域では、軌道の接線方向に物体は飛び出しますので、落下点も予定空路の外側へ拡がるでしょう。落下物の形によって、空気の抵抗や風の効果で落下点の範囲は拡がります。
もし脱落事故があれば、都心の繁華街の高層ビルの窓へ斜めから落下物は飛び込んでくることも十分あるでしょう。高層マンションも同じです。9.11のニューヨークの貿易センタービルに飛行機が突き刺さるような大事故が絶対ないとはいえません。
転ばぬ先の杖はあるでしょうか?
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