23 こんなレーザーの使い方
投稿日 : 2021.08.29
レーザーは 今日なくてはならない光源として様々に利用されてい ます 。しかし、 ここではあまり 一般的ではない 使い道として、ロシアの研究グループの研究 を 紹介します 。
ロシア語の表題を英訳するとおよそ次のようになります 。
S.N. Andreeva, E.V. Barmina, V.G. Kalinnikov, A.V. Simakin, A.A. S mirnov, V.I. Stegailov, S.I.Tyutyunnikov, G.A. Shafeev and, I. A. Shcherbakov ,
" Detection of the Influence of pulse Laser irradiation on radioactive decay of 137 Cs in a colloidal Gold solution. First Results”, Letters in ECHAYA. 14, No. 6, 630 636 (2017)
『金のコロイド水溶液中 における セシウム137の 放射 崩壊 に対する レーザー光照射の影響の検出 :第一報 』
この研究の目的は 放射性廃棄物の中で厄介者とされている 危険なセシウム137にレーザーを照射して安全な元素に速やかに変換( transmutation )させることで す 。
137Cs は、ウランの核分裂で出来る 放射性 元素の中で特に沢山 生成され、 94.5 %はベータ崩壊 によって、 原子核の中では 中性子が一個陽子になり、 図のオレンジ色で示した137 Ba の不安定な状態 になります。 この原子核は 661.7 KeV のエネル ギー の γ線の フォトンを一個放 出して安定な 137 Ba ( 放射 線を出さない安全な原子 核)にな ります 。しかし、137Csがこのベータ線を出す効率は非常に 低いので、なかなか不安定な137 Ba まで 崩壊が進まず 、 結果的に いつまでもガンマ線が出続け、やっと 137Cs の数が半分 になるのに少なくとも30年ほどか るという 厄介な代物で す 。 なんとかもっと速く 安全な生成物へ変換できないものでしょうか?
福島の事故でまき散らされたり、これまでに溜まった大量の放射性廃棄物 は、その有効な 処理 方法の進展もなく、とにかく何とかしないと 、処理が永遠にできないことが稼ぎの種になって、もっと建設的なこと資金に使おうにもできません。これから紹介する方法もすぐに使えるとは到底思えないものですが、基礎研究としては比較的安上がりなので、これから何かいいヒントが得られないかと思いました。
論文に書かれた実験装置 を絵にしてみました。 137 Cs の 水溶液の入った容器に金の棒 (オレンジ色の部分)を差し込み、外から金の表面にレーザー光を絞り込んで照射します。すると、137Csから出てくるガンマ線の量が確かに少なくなったというのです。(溶液の入れ物は水の循環で冷やされ、Nd:YAGレーザーのパルスが使われています)
次のグラフは実験結果のスケッチです。縦軸はガンマ線の計数値、横軸は時間を示します。
黒い●印は137Csからのガンマ線の強さです。赤い〇印はレーザーを当ている間だけガンマ線が減る様子を示しています。
金の表面にレーザー光を絞って照射すると、表面の金の原子が飛び散ってナノ粒子になり水の中に飛び散ります。避雷針の先端と同様、そのような金属の粒の表面近くでは光の電場が非常に強くなるので、ちょうど雷で稲妻が光るような状態になります。すると水の中に浮かんでいるCs原子の電子がその光を吸収して原子核からはがれて(イオン化して)、電子がもぎ取られた原子が生まれます。電子が留守になってイオンとなっている原子は、原子核からベータ崩壊によって放射された電子を高い効率で捕まえるので、ベータ崩壊が加速されます。しかし、もしそうならガンマ線の量はむしろ増えるはずです。ところが、この実験では反対に弱くなっています。
上の図のように、137Csがベータ線を出すもう一つの過程あります。しかし、その効率は5%程度と低いのですが、この過程はガンマ線を出さずに直接安定な137Baになります。したがって、レーザーの光の照射によってこちらの崩壊過程が優勢になって、ガンマ線が弱くなったのではないかと著者たちは考えました。
そう考えた理由は、このようなレーザー光の効果のある例は2014年ごろから知られていて、187Reという原子の原子核のベータ崩壊による半減期は1010年という半永久的な長さなのですが、この原子の電子を全部はぎ取ると、その効率が109倍も高くなって半減期も10年ほどに短くなるので、137Csでも同様な効果があってよいと考えたからだそうです。
「この実験結果程度では、とうてい実用にはならない」と、すぐ役に立つ研究が優先される国では、研究資金が断たれ、研究者にはあっさり無視されるでしょう。しかし、このようにわずかな減少でも、この原因を探り続けると思わぬ発見があって、「急がば回れ」になるかもしれません。
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