24 フォトンの正体
投稿日 : 2021.08.30
「光はフォトンの集まりだ」といってきたのですが、その本当の正体はまだ明かしてきませんでした。次の絵でその正体がおわかりでしょう。(イラスト:ぷにつく)
せいうち君と友達がキャッチボールをしています。ボールは二人の間で行ったり来たりします。
フォトンはこのボールのように、電気を帯びたり、電流が流れたりするもの同士がエネルギーをやり取りするときに、なかだちをする「のっぺらぼう」です。せいうち君たちは電荷だと思ってください。
-と-、+と+の電気(電荷 e)を帯びたもの同士は反撥しますし、符号の違う電荷は引き合います。この力はクーロン力と呼ばれ、一方の電荷によって生まれる電場Eと他方の電荷の間に働く静電力です。また電荷が相対的に速度vで運動しているときには、電流と磁場がかかわる力が生まれます。これらの力はローレンツ力としてまとめられ、次の数式で表現できます。このローレンツはローレンツ変換として名が残されているH.ローレンツです。
このような電気や磁気が仲立ちとなって電荷が力を受け合う現象(相互作用)は電磁相互作用と呼ばれます。つまり、フォトンは電磁相互作用の仲立ちをする「のっぺらぼう(量子)」です。
これがよくわかる現象が、電子と電子の散乱で、その散乱効率の理論計算を1930年に行ったモラー(Christian Møller,1904-1980)に因んでモラー散乱と呼ばれます。
2個の電子が遠方から接近すると、各電子は周りに電磁場を伴うので、双方に力を及ぼし合います。電子はマイナスの電荷を持っていますので反発して両方の速さも方向も変わります。2個の電子の立場は対等なので、起きる現象も幾何学的にも対称で、エネルギーも、運動量も保存します。
詳しい理論の説明は省略しますが、2個の電子の相対速度が光速cより十分遅い時には、クーロン力が働き、電子間の距離の2乗に反比例し、万有引力と数式の形は同じです。この時交換されるフォトンは観測にかからないスカラーフォトンとか、仮想フォトンとか呼ばれます。
しかし、相対速度が速くなると、相対論に矛盾しないベクトルポテンシャルが相互作用を表現するにはふさわしく、電場も磁場も寄与し、その結果、電磁波のフォトンが交換されるようになると考えられています。
つまり、フォトンは「電磁力」を媒介する量子で、これがフォトンの本当の正体です。
フォトンは、これまでに私たちの宇宙で見つかった4つの力(「重力」、「電磁力」、「強い力:原子核の中の陽子や中性子を組み立てている力」、そして「弱い力」)をそれぞれ媒介するフィールド・ボソンと呼ばれるものの一つです。
電子間のエネルギーの交換過程では、1個のフォトンを交換し合う過程が最も起き易いのですが、原理的には無数のフォトンが関与します。それだけではなく、電子が単独にいても自分の周りに自分で作る空間のひずみの影響を自分が受ける効果もあります。月夜に自分の影に驚いてのけぞったり、立ち止まったりするようなものです。
このように電荷の関係する相互作用は複雑で、この効果を正しく考慮しなければ、光の関わる現象を正しく理論的に論じることはできません。これを扱う理論は量子電気力学(Quantum Electro-Dynamics:QED)と呼ばれ、これを理解するには専門的な知識がいります。しかし、フォトンと物質とのかかわりを本当に知りたい場合には避けて通れません。
このややこしい問題をうまく「すり抜ける」理論(くりこみ理論)を考案したのは、朝永振一郎(1906-1979)、シュウィンガー(Julian Seymour Schwinger,1918-1994)、ファインマン(Richard Phillips Feynman、1918-1988)らで、1965年にノーベル物理学賞を受賞しました。
彼等の計算結果は実験で得られるいくつかの基礎的な量の数値を非常に精度よく理論的に再現することが知られていて、力の中でも電磁力はもっとも精度よく解明された力とされています。しかし面倒な過程を丸め込んだだけで本質的な理解は出来ていないと考える専門家もいるそうです。
朝永、シュウィンガー、ファインマンの論文は1948年中にそろって発表されました。特に、朝永らとシュウィンガーの理論の第1報はどちらも前の年の12月30日に速報として受理されています。どうして離れた場所で個別につくられた理論が、よりによって同じ年の暮れの30日に同時に発表されたのでしょう? 偶然とは思えない?と思われたそうです。
しかし、宮沢弘成博士(1927-)によれば、偶然だったそうです。なおこの三人にまつわる興味深い話や、くりこみ理論の本質的なミソが公開されていましたが、残念ながら最近は見つからなくなっています。「リレー連載、人物で学ぶ物理学 第99回シュヴィンガーと量子電磁力学」
その昔、筆者は次のような話を聴きました。「もし電子に大きさがあって電荷が均等に広がっていると、電荷の細かな切れ端の間の距離が滅茶滅茶短いので、大変なクーロンの反発力によって分解してしまう。まして大きさのない数学的な点だと考えると、その力は無限大になって電子は爆発して吹っ飛ぶ。というより理論が破たんする。でも実際にはそんな爆発は起きていない。不思議だね」
電子は誰もががよく知っているように思うものですが、実は奥の深い量子です。
この電子が、誰も思いつかなかった性質を持っていることに気づいた貴族がいます。
その貴族の発見から展開される新しい力学(量子力学)の世界を訪問しましょう。
光そのものの話の終わりとして、ファインマン博士の講義の記録がYoutubeに残されていることを付け加えます。https://www.youtube.com/watch?v=xdZMXWmlp9g 話の内容とは別に、彼の顔の筋肉の動きはなかなか印象的です。
なお、電磁場とフォトン、QEDにつながる電磁場の基礎については、ハイトラー(Walter Heinrich Heitler,1904-1981)の有名な教科書(The Quantum Theory of Radiation, (Dover), 沢田克郎訳、『輻射の量子論(上下)』吉岡書店)に丁寧に説明されています。この教科書の付録(邦訳版では下巻の付録)がとても興味深いことをメモします。
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