5.光の屈折率と物体の質量の不思議な関係

投稿日 : 2021.06.22


これまで2種類の例で光の進む道筋はフェルマーの原理によって予測できることを紹介しました。

一方、物体の運動はニュートンの運動方程式によって予測で予想できるわけですが、これはもっと一般的な力学における最小作用の法則(モーペルテュイの原理)という数学的な理論から求めることができます。この法則は次のように表されるSという量が最小になるように物体は運動するというものです。

最小作用.jpg

この式の()の中の量は、質量mの物体が速度ýで運動しているときに、その物体が持っている運動エネルギーです。この原理によって重力の影響下にある物体の落下について運動方程式、mÿ=-mgを導く方法はこちらにあります。

ここで興味深いことは光の道筋も物体の運動の軌跡も、屈折率を質量に、位置を時間などに置き換えると、どちらも数学的には同じ方程式を解くことによって予想できることです。これはフェルマーの原理と最小作用の原理が数学的には同じだからです。

この事情によって「光は最も短時間で目的地へ着くように進み」、「物体の方は最も省エネルギーになる道筋を通って進むものだ」というそれぞれの性質がわかります。ちょうど私たちが急ぐときに、なるべく近道をするという習性と似ていますね。

このように一見無関係に見える自然現象も、数学を使って眺めると数としては同じ取り扱いができ、それが単に偶然というわけではなく、それには深い共通の物理的な意味がありそうだということがわかるというのは、物理学の面白いところです。

ここで、これまでの話の締めくくりとして、光の屈折率と物体の質量の関係を考えることにしますが、理屈を云々するよりも、たとえ話の方がふさわしいと思います。

東京原宿の表参道を、人気の女優さんが早朝ジョギングしているとしましょう。通りには誰もいないので、彼女は自分のペースでどんどん走ることができます。

しかし、すこし人通りがある時間帯では、彼女は周りの人々に見つけられ、手を振られたり、声を掛けられたりします。彼女はそれを無視して走るわけにはいきませんから、会釈したり、手を振ったりとすこしペースが落ちてしまいます。

もし、もっと人通りの多い時間では(そんな無謀なことをする人はいないでしょうが)周りの人々は群れて近寄ったり、握手を求めたりするので、走るどころではなく、挙句は歩くこともできなくなって危険です。

これは彼女と周りの人々との個別の関わり(ここで物理の言葉を遣えば、双方の間に働く相互作用)によって、走れる速度が変わることです。

このたとえ話を光に当てはめれば、彼女は光、周りの人々は物質を構成している原子や分子の電子です。そして人々の混みぐわいが物質の密度に対応しています。

また、誰もいない道は真空と考えられます。彼女は誰もいない道では最も速く走れます。光も真空中を進む時が最高の速度になります。

屈折率は、真空中を進む光の速さを物質中の速さで割った量です。密度が高いほど速度は遅く、屈折率は大きくなります。大気の屈折率が地上に比べて上空に行くにしたがって小さくなるのは、上空ほど空気が薄いからです。

屈折率を決めている要素がもう一つあります。それは、その女優さんがまだ駆け出しで、それほど売れていなかったとします。その場合は大勢の人がいても知っている人が少ないので、空いているときのように走れます。もっとも人が多くて物理的にぶつかるような場合は考えないことにしましょう。

つまり、彼女の知名度によって注目度が変わりますので、走れる速さもそれに大きく影響されるのです。

ニュートンは部屋の窓から太陽の光を取り込み、水を三角柱の容器に入れてその光を通して壁に写し、太陽の白い光が色々の色の光の集まりであることを示しました。プリズムで光を分けたのです。

そして、赤い光に比べて青い光、更に紫の光の方が大きく向きが変わることを観察しました。これは水の屈折率が色によって違い、紫色の方が赤い色より大きな値を持つためです。

つまり、色の違いが女優さんの知名度の違いのようになっています。光の話でいえば、密度が同じでも、光と物質中の電子との相互作用が大きいほど、屈折率は大きくなります。

相互作用とはエネルギーのやり取りということで、そこには力が働いています。その力が強いとその光の進み方は遅くなるわけです。

ここで、質量の話に移ります。

質量には、慣性の大きさを表す慣性質量と、重力を受ける強さを表す重力質量があり、実測では同じ大きさですが、その理由はのちに述べるアインシュタインの一般相対論で理論的に証明されました。これらと、屈折率との関係を考えましょう。

ある大きさの力で物体を押す時、mが小さいほど速く進みます。ですから、屈折率が小さい場合に相当します。一方、ある重力源によって生まれる重力ポテンシャルがあるとき、mが大きい方が強い引力が生まれます。これは相互作用が大きい物質の中ほど屈折率が大きくなることに対応します。

しかし、これらの相互作用の種類は全く違い、それによって発生する力も違います。

この違いを知るためには、光がどうして電子とエネルギーをやり取りできるのか?

また、そもそも、光とは何か? 

そして重力とは何か?

という問題を考えることが必要になります。

その出発点は、「光の速さには上限がある」という実験事実です。

これが次からのここでの話題になります。